ファイナンス 2022年4月号 No.677
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(注) 本稿を執筆するにあたり、トルコ中銀、トルコ財務省、IMF、土田陽介『ドル化とは何か』(ちくま新書)、IIFレポート、JCIFレポート等を参照した。三菱UFJリサーチ&コンサルティング 土田陽介氏、国際金融協会(IIF)Ugras Ulku氏、国際金融情報センター(JCIF)山口正章中東部長、同平野奈津江研究員からお話を伺った。貴重な機会をいただいたことに厚く御礼申し上げたい。あり得べき誤りは筆者たちの責に帰するものであり、文中、意見に係る部分は筆者たちの私見である。コラム 海外経済の潮流 1394.小括「大切なものは、目に見えないんだよ」(サン・ディグジュベリ『星の王子さま』)―日本で生活している限り、国民が自国の通貨を使うことは自明に思える。何らの対価を支払うことがなくとも、国民が「円」を使うことは永遠に続くようにも思える。その背後にある国民の通貨への信認は目に見えず、それが失われたときにはじめて、国民と通貨の間が「信認」で結ばれていたことに気づくことになる。通貨の信認が失われると何が起きるのか。それは通常の預金の外貨預金へのシフトであり、金投資による資産防衛であり、ドル建てでの融資であった。「ドル化」した経済は、自国の内部でありながら、ドルで経済が回るいわば「ドル経済圏」であって、そこには通常の金利操作による金融政策の効果が直接及ぶことはない。自国通貨建てを大層としていた政府債務も、現在は過半が外貨建てとなった。マクロ経済政策の成否は、国民の生活に対して広範かつ直接的な影響を与える。自国を政策の「実験場」とすることについては慎重であるべきだろう。ことに通貨の信認は、失われれば取り返すことが容易でない可能性が高く、他者の経験から教訓を導く意義が大きい。トルコの経済危機は、通貨の信認が失われた一国経済の姿を可視化している。日本が失ってはならない「大切なもの」が何かを教えてくれていると筆者たちは考えている。

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