ファイナンス 2022年4月号 No.677
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246810121416182022/12021/102021/72021/42021/12020/102020/72020/42020/12019/102019/72019/42019/12018/102018/72018/42018/1(出所)トルコ中銀ドル安リラ高ドル高リラ安コラム 海外経済の潮流その時、「自国通貨」は選ばれるのか? ―トルコで進む「ドル化」の教訓大臣官房総合政策課政策調整室長 兼 国際経済室長 川本 敦/大臣官房総合政策課調査統計官(前 在トルコ日本国大使館二等書記官) 髙木 秀起139(1)為替(2)物価1.はじめにアジアと欧州の間に位置する内うち海うみが黒海である。古来多くの民族が行き交い、東西の文明が交わり、世界史上の大帝国である東ローマ・オスマン・ドイツ・ロシアもこの海面でその興亡を示してきた。黒海の北岸ウクライナにおける戦乱。21世紀の現在にあってなお、黒海沿岸の地域はその複雑な歴史に新たな章を加えようとしている。2.経済危機と当局の対応トルコが経済危機を経験するのは過去30年で4度目となる。今回の経済危機を特徴付けるのは、通貨や物価の大幅な変動、そして、中央銀行による特異な対応である。本稿で取り上げるのは、黒海南岸の新興国トルコにおける経済の混乱である。昨年秋以降、トルコでは4割を超える通貨の下落、前年比5割を超える物価上昇を記録する経済危機の状況にある。多くの日本国民にとって馴染みが深いとは言い難いトルコであるが、家族、伝統、礼節を重んじる国民性など日本人との共通点も多く、親日的であるとも言われる。経済の構造の面では、資源輸入国であり、一次産品の価格変動で貿易収支に大きな影響が及ぶことにおいて日本と共通する点がある。トルコ経済の混乱からどのような教訓が得られるのか考えてみたい。近年、トルコリラは下落傾向にあったが、その背景として、(1)資源輸入国である中で経常赤字が慢性的に継続していること、(2)エルドアン大統領による中銀総裁の度重なる更迭に起因する金融政策の独立性に対する市場の懸念、(3)対米関係の悪化といった要因があった。昨年9月以降の利下げサイクルは大統領の意を汲んだものと解釈され、中銀の金融政策に対する市場の不信が再燃し、リラは更なる下落局面に入った。FRBなどの主要中銀の金融政策正常化観測も新興国通貨であるリラの下落に拍車をかけ、12月20日の取引時間中には1ドル18リラの史上最安値を付けるなど、2021年中の対ドルでのリラの下落率は40%超となった。12月末には中銀の為替介入があったとされており、大きく値を戻したが、足元でも歴史的なリラ安の水準で推移している。【図表1】【図表1】トルコリラの対ドルレート(中銀公表値)(1ドルあたりリラ)エルドアン大統領による中銀総裁解任後の金融緩和路線へのシフトを背景に消費者物価上昇率は2019年後半から前年同月比10%台から徐々に上昇してきたが、昨秋以降の通貨安や世界的なエネルギー価格の上昇による輸入価格の上昇もあって、2021年12月から急上昇し、2022年2月には同54.4%と約20年ぶりの水準を記録した。【図表2】

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