ファイナンス 2022年4月号 No.677
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順位(1)部門名(2)部門数(2)の(全391部門)1卸売2集積回路液晶パネル4飼料事業用電力(注)投入係数0.1という基準は、株田文博「産業連関分析による食料供給制約リスクの分析」等で必要不可欠な中間財を識別するために設定されている数値であるが、一般的なコンセンサスがある値ではない。年月2021年1月~2021年4~6月期~2021年11月・半導体は「産業のコメ」とも言われ、パソコンやスマートフォン、自動車等の現代の生活に必須な工業製品材料である。例えば、集積回路や液晶パネルは、数多くの生産部門において重要かつ不可欠な中間投入物となっており、それを使用する生産部門が生み出す粗付加価値額は、「コメ」を含む飼料よりもはるかに多い(図表1)。情報化社会の発展に伴い、半導体の市場規模は今後も継続的な成長が見込まれている(図表2)。・しかし、半導体の生産は特定の企業、国に集中している。自社で生産を行わないファブレス企業を除いた半導体メーカーの売上シェアを見ると、上位3社でトップ50社の約半分を占めている(図表3)。さらに、半導体は高性能品の生産になるほど莫大かつ迅速な設備投資が必要となるため、より大企業へと生産が集中する傾向がある。2020年時点において、回路幅10nm未満の最先端の半導体生産は韓国のサムスンと台湾のTSMCの寡占状態となっている(図表4)。(図表1)投入係数0.1以上の 部門数及び付加価値額・特定の企業への生産の集中は、平時においては、研究開発のリソースの集中投下と高い設備稼働率実現の観点から経済合理性が高いとも考えられるが、有事の際に供給が止まれば、川下産業に大きな影響が出る。実際に、新型コロナウイルスの感染拡大による経済活動の抑制やサプライチェーンの混乱と、情報関連財への需要の急拡大は、半導体生産のリードタイムの長さも相俟って、幅広い業界に影響を与えている(図表5)。・こうした中、半導体生産が特定の国や企業に集中することのリスクが改めて見つめ直されている。日米欧中の各国は、半導体生産を自国内で行うための補助金による生産拠点の国内誘致や、先端技術の研究開発への投資に動き出している(図表6)。・日本では、「経済安全保障」の文脈で、この取り組みが進んでいる。経済安全保障戦略の重要な考え方として、2020年12月に自民党から出された提言の中では、「戦略的自律性」と「戦略的不可欠性」という二つの概念が提唱され(図表7)、政府の「基本方針2021」において、経済安全保障の戦略的な方向性として、自律性の確保と優位性の獲得の実現が掲げられている。・半導体の生産拠点の国内誘致は、日本の生産活動に不可欠な半導体の供給力を増やし、戦略的自律性の獲得に資する取り組みであると考えられる。半導体不足の生産への影響(3)(2)の部門の粗付加価値額(兆円)1599884.44.22.91.11.3国名内容トヨタ(日)、フォルクスワーゲン(独)等国内外の自動車メーカーで断続的に生産調整アップル(米)、「Mac」や「iPad」の減産任天堂(日)、2022年3月期の「ニンテンドースイッチ」の生産計画を下方修正日本米国EUロジックアナログメモリ半導体合計企業名Intel(米)Samsung(韓)TSMC(台)SKHynix(韓)MicronTechnology(米)補助金内容(1)生産拠点の集中度が高く、サプライチェーンの途絶によるリスクが大きい重要な製品・部素材、または国民が健康な生活を営む上で重要な製品・部素材について、国内生産拠点整備等に対する補助金(2)「先端半導体生産基盤整備基金」を設置し、5G情報通信システムの構築に不可欠な先端半導体に係る生産基盤整備のための資金に対し、最大50%の補助金。中国「国家集積回路産業投資基金」を設置。加えて、地方政府で半導体産業向けの基金設置。半導体産業(1)半導体産業投資を含むCHIPS法案に賛意。(2)官民共同での最先端技術研究開発プログラム策定(1)半導体分野に対して、2018-2024年に大規模な補助金投入(2)2030年までのデジタル移行に向けた産7.9%7.4%6.8%7.1%779653459286221対象金額半導体・医療等(1)5,168億円(2)6,170億円計10兆円程度半導体産業(1)520億ドルロジック半導体、HPC・量子コンピュータ、量子(1)約2,000億円(2)約17.5兆円(%)100806040200≧0.18µ0.18µ>~≧40nm40nm>~≧20nm20nm>~≧10nm台湾韓国日本北米中国欧州その他(2020年)(右に行くほど高性能)日本の国民生活及び社会経済活動の維持に不可欠な基盤を強靭化し、いかなる状況下でも他国に過度に依存することなく、国民生活と正常な経済運営を行うこと。国際社会全体の産業構造の中で、日本の存在が国際社会にとって不可欠であるような分野を戦略的に拡大し、長期的・持続的な繁栄及び国家安全保障を確保すること。戦略的自律性戦略的不可欠性10nm>合計定義(図表2)半導体市場規模予測 (図表3)企業別シェア(2020年)※除くファブレス20年売上高(億ドル)トップ50に占める割合20.0%16.8%11.8%7.3%5.7%(図表6)各国の補助金、施策等(図表5)(2021〜2026年にかけての年平均成長率)(図表4)地域別・回路幅別生産シェア(図表7)戦略的自律性と戦略的不可欠性大臣官房総合政策課 深澤 瑛介/白井 斗京コラム 経済トレンド94戦略的自律性のための国内半導体生産誘致半導体の重要性本稿では、経済安全保障の観点から半導体サプライチェーンについて考察する。半導体サプライチェーンと経済安全保障

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