ファイナンス 2022年4月号 No.677
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5おわりに本稿ではホールセール・ファンディングについてMMFに焦点を当てて説明をしました。さらに深い議論が知りたい読者はアーマー等(2020)の第20章から22章を読むことをお勧めします。また、金融危機時の対応の記述については、実際の政策を担っていたバーナンキ氏とガイトナー氏の著書を本稿では(いわば一次資料に近いため)できる限り出所としましたが、バーナンキ(2015)やガイトナー(2015)は非常に丁寧に記載されているため、同書を一読することをお勧めします。*28) 投資信託の世界では、ファンドの時価総額を「Net Asset Value(NAV)」といいます。*29) Blackrock(2018)「US Money Market Fund Reform:Assessing the Impact」を参照してください。なお、ブラックロック資料ではManipal/Tax Exemptが含まれていますが、本稿ではガバメントMMFとプライムMMFに絞っています。より詳細を知りたい読者は同資料を参照してください。本稿でこの二つに絞っている理由は、アーマー等(2020)などファイナンスのテキストでこの二つに絞った説明がされる傾向があるためです。投資家のタイプMMFのタイプNAV償還手数料ゲート条項2%まで10営業日まで機関投資家機関投資家/個人個人変動安定的安定的2%まで10営業日までプライムガバメントプライムなしなし(出所)ブラックロック資料より筆者作成*29なりました。そこで、ガバメントMMFについては、その99.5%以上を現金や国債等で運用するなど、より運用を厳しくするという対応がなされました。これはより安全性や流動性が高いMMFを設定させることにより、金融危機時の取り付けを防ぐとともに、仮に流出があった場合、その対応を可能にするための措置といえます。さらに、この改革では、MMFの投資家についても個人投資家と機関投資家を分けた規制がなされました。MMFの取り付けについては、特に機関投資家からの解約が激しかったとされています。これに対処するため、機関投資家から資金を募集する(国債等以外へも運用する)プライムMMFに対して、(1)時価評価するとともに、(2)ゲート条項など、急激な解約に歯止めをかける措置をとりました。すなわち、前述のように国債などに絞った運用を行うガバメントMMFではなく、一定のリスクをとるプライムMMFで機関投資家が運用する場合に、そのMMFを時価評価するとともに、急激に引き出すことを防ぐ措置をとったわけです。前述のとおり、預金と同じ性質を有するためMMFでは時価評価がなされていないという点を指摘しました。もっとも、特に国債等以外の運用も含むプライムMMFについては、例えば、金融危機時は証券化商品なども有していることから、MMFの時価が見えにくいという意味で投資家がパニックを起こしやすい状況とも言えます。そこで、機関投資家が保有するプライムMMFについては時価評価(これを変動NAV*28といいます)する措置が取られました。また、機関投資家だけでなく、個人も含めたプライムMMFについては、解約を防ぐ措置として償還手数料とゲート条項が導入されました。償還手数料はMMFの流動性が一定程度低下した場合、MMFの解約に係る手数料を課すことが可能になる措置である一方、ゲート条項は流動性が一定程度低下した場合に一定期間、MMFから引き出しをできなくするための措置です。どちらもプライムMMFに対して取り付けを防ぐための措置と解釈することができます。図表7が上記をまとめたものです。グレーでハイライトされている部分が2014年で改革がなされた部分になります。*29図表7 2014年におけるMMF改革の概要このMMFの改革については多面的な評価がなされています。特に重要な点はこの制度改革は必ずしもプラスに評価されているとは限らない点です。例えば、アーマー等(2020)では、「SECが導入した機関投資家向けMMFという『解決策』は、いくつかの懸念を含んでいる」(p.736)としたうえで、固定NAVが継続されたガバメントMMFへのシフト、依然として大量償還リスクにさらされている等の懸念を指摘しています。MMFの改革については学術研究もなされています。ニューヨーク連銀のエコノミストが分析したCipriani and Spada(2021)はMMFの改革はプライムMMFからガバメントMMFへのシフトを促したと指摘したうえで、この制度改正がガバメントMMFをより貨幣としての機能を強めた点に着目します。そのうえで、投資家が評価する貨幣との類似性(money-likeness)の推定を試み、その結果、money-likenessが20~30bps程度であるという推定結果を示しています。

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