ファイナンス 2022年4月号 No.677
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*25) 下記を参照としています。 https://www.fsa.go.jp/news/30/ginkou/20180629.html*26) 2014年のMMFの改革についてはアーマー等(2020)や岡田(2014)を参照してください。*27) MMFには、この二つ以外にMuni MMFがありますが、本稿ではガバメントMMFとプライムMMFに絞っています。本稿でこの二つに絞っている理由は、アーマー等(2020)などファイナンスのテキストでこの二つに絞った説明がされる傾向があるためです。米国MMF(マネー・マーケット・ファンド)入門4.2 MMFに対する規制改革よれば、「安定調達比率とは、売却が困難な資産(所要安定調達額。オフ・バランスシートを含む)を保有するのであれば、これに対応し、中長期的に安定的に調達(負債・資本)することを求めるものである」*25としています。具体的には、国際統一基準行に対して、下記のように安定調達比率を定義し、この比率が100%以上になるような運営を求めています。安定調達比率=重要な点は、この比率を守るように大手金融機関にインセンティブを与えているところです。安定調達比率の定義式を見てほしいのですが、分母が「所要安定調達額」となっており、これはBSの左側(資産サイド)に焦点をあてたものです。具体的には、金融危機時等において流動化できる可能性に応じてウェイトをとることで、当該銀行が有する「売却が困難な資産(所要安定調達額)」を算出します。一方、分子である「利用可能安定調達額」はBSの右側(調達サイド)の情報で構成され、資金が引き出される可能性に応じてウェイトをとることで算出されます。たとえば個人・中小企業からの預金のウェイトは90%などという高いウェイトである一方、金融機関等からの資金調達の場合、50%など低いウェイトが用いられます。このようにウェイトを用いた比率に立脚することで、売却が困難な資産を保有する場合には、ホールセール・ファンディングに対し、リテール・ファンディングで資金調達を行うようなインセンティブを与えているわけです。これはバーゼルの自己資本比率規制において、リスクが高いアセットで運用する場合は、リスクテイクを許容する株主から資金調達をしてくるようインセンティブを与えていることと類似したロジックです(バーゼル規制の概要については服部(2021a)を参照してください)。利用可能安定調達額(資本+預金・市場性調達)所要安定調達額(資産)≥100%ここからMMF規制の概要について議論をしてきます。前述のとおり、MMFを通じた取り付けが問題になりましたが、MMFへの規制も強化されています*26(MMFは投資信託であることから米国証券取引委員会(SEC)が規制を課しています)。ここまでの流れを見た読者がMMFを規制するうえでどう感じるかですが、一つの考え方は、MMFは預金のような機能を果たしており、金融危機においても元本保証のような措置を採られたのだから、銀行と平仄をとった規制を付すべきだというものです。MMFは事実上、銀行のような機能をもっているわけですが、銀行にバーゼル規制という自己資本比率規制を軸とした規制があることを考えるとMMFの規制は緩いとみることもできました。その一方で、そうはいっても、MMFは国債やCPなどで運用するのだから、主に中小企業等への貸出をしている銀行とは有しているリスクの特性は全然異なるわけであり、同一の規制を課すのは実態に合わない、とみることもできます。読者の多くは両方ともその言い分に合理性があると感じるかもしれません。前節からMMFには脆弱性があることがわかりましたが、その脆弱性は二つのタイプに集約できます。一つ目は、MMFの投資家は預金のようにMMFを保有しているため、元本割れなどがあった場合は銀行の取り付けのように突然の引き出しを行う可能性があるということです。二つ目は、MMFは必ずしも流動性が高い資産を保有しているわけではないため、仮にすぐに引き出された場合に対応できるとは限らない点です。2014年にMMF改革案が発表され、2016年から実施されましたが、大枠でみると、この二つの軸に対応していると理解することができます。ここから改革の内容について説明をしていきますが、まず、MMFの運用の厳格化がなされました。そもそもMMFには国債で運用がなされる「ガバメントMMF」とCPなどでも運用を行う「プライムMMF」があります*27。金融危機時には、MMFがレポで運用を行う際の担保が証券化商品であったこと等が問題と

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