ファイナンス 2022年4月号 No.677
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4金融危機以降の改革4.1 バーゼル規制:安定調達比率ABCPについて2点補足があります。1点目はABCPの多くには信用保証や流動性保証が付されているという点です。Acharya et al.(2013)によれば金融危機直前のABCP市場においてABCPの7割以上がこれらの保証によってカバーされていることを指摘しています。この保証はMMFによるABCPの投資を容易にしました。2点目は、満期の変換です。ABCPはCPであるため満期が短い債券なのですが、SPVが保有する債権等の満期は一般的には長い可能性があり、これを全体でみると、いわば満期の変換機能を行っているという解釈ができます。このような満期変換機能は、(銀行が短期の預金で調達して、長期の貸出で運用することを考えると)商業銀行と同じ機能を有しているとみることができます。そのため、ABCPもシャドー・バンキングの一種として整理される傾向にあります。ここではABCPについて最低限の知識を整理しましたが、ABCPなど証券化商品は金融危機時以降、規制等が大きく変わっているため、詳細を知りたい読者は各種資料を参照してください。(出所)木下(2018)をベースに筆者作成ABCPを買うための資金を貸出ABCPを担保として取得資金ABCPの発行預金取扱機関または銀行持ち株会社ABCPSPVABCPを購入代金の支払いABCPの買取り資金赤字主体が有する債権等MMFABCP事業会社や金融機関など図表5 ABCP-MMMF流動性ファシリティ(AMLF)のイメージボストン連銀ABCP図表6 ABCPのイメージMMFなどABCPの投資家BOX 1 資産担保コマーシャル・ペーパー(ABCP)について本稿ではABCPについて触れました。図表6がABCPのイメージ図になりますが、SPV(特別目的事業体)というペーパーカンパニーがABCPを発行し、それをMMFなどが購入します。MMFの資金はSPVを通じて事業会社などの赤字主体に資金が流れますが、その一方で、赤字主体の債権等がSPVに保有されます。キ(2015)、木下(2018)等を参照してください。上述のように、金融危機時にはMMFの取り付けを通じて短期金融市場に混乱が起こりましたが、金融危機時以降は、その問題を防ぐために様々な措置が取られています。本節ではMMF改革を主軸に説明をしますが、まずは銀行の規制の主軸であるバーゼル規制における位置づけについて概観します。まず、ホールセール・ファンディングという意味で重要な規制は流動性規制です。流動性規制は金融危機を反省にバーゼル規制上、新たに追加された規制になりますが、(1)流動性カバレッジ比率(Liquidity Coverage Ratio, LCR)と(2)安定調達比率(Net Stable Funding Ratio, NSFR)の二つで構成されます。LCRは短期的な流動性リスク管理指標、NSFRは中長期的な流動性リスク管理指標になるのですが、具体的には(1)LCRは金融危機時にすぐに資金がショートしないように、ストレス時、30日間に見込まれる資金流出に対応できる流動性を確保することを求めるものです。ホールセール・ファンディングという意味で特に重要なものは後者の(2)安定調達比率です。金融庁に

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