Daily9/8*19) ここでの説明はアーマー等(2020)を参照しています。*20) ガイトナー(2015)によれば、当初MMFの払い戻しの保証をすることを検討したが、預金保険を脅かし、銀行システムで取り付けが起きる懸念があることから、この保証は金融危機以前にMMFに投資した分に限ったと説明しています。詳細は同書のp.258を参照してください。*21) ここでボストン連銀が出てくる理由は、アーウィン(2014)によればニューヨークとワシントンのFRBのスタッフは金融危機の対応で手薄になっていたことや、ボストンには信託銀行などMMFに係るインフラが充実していたこと等を挙げています。*22) このような間接的な方法が用いられた理由として、「連銀がファンドから直接証券を買うことを制限する法的制限が課されていたから」(バーナンキ 2015, p.45)という理由が挙げられます。*23) この保証は為替安定基金(ESF)を通じてなされています。バーナンキ(2015)はこれを「連邦預金保険公社が一般の銀行口座を保証するようなもの」(p.46)としています。詳細はバーナンキ(2015)のp.45-46を参照してください。*24) 木下(2018)は「AMLF貸出は、ノンリコースの与信であり、その経済機能は、FRBが金融危機を経由してMMFからABCPを買い入れたのと実質的に同じである。(中略)AMLFは、スポンサー金融機関にABCPの流動性保証の履行を促し、ABCPに投資したMMFが資金払い戻しを円滑に進めることを後押しする仕組みと理解できる」(p.235)と説明しています。金融危機時には、これ以外にもTerm Auction Facility(TAF)など多くの流動性供給ファシリティが特設されました。詳細は木下(2018)などを参照してください。なお、次回の論文ではTAFなどを解説することを予定しています。MMFの元本割れリーマン倒産9/12(出所)バーナンキ資料より抜粋040保証の公表20-20-40-60-80-1009/189/24-120図表4 2008年9月におけるMMFからの資金流出入米国MMF(マネー・マーケット・ファンド)入門3.3 金融危機時における政府及び中央銀行の対応経験のない重要な特徴といえます。金融危機時にはこのようなレポ市場における混乱が見られたことから政府は様々な対応を余儀なくされます*19。前述のとおり、MMFは銀行のような役割をはたしており、元本割れが起きたため、取り付けが起こりました。MMFの取り付けに対応するため、まず政府が行った対応はMMFの元本保証です。米国では連邦預金保険公社(Federal Deposit Insurance Corporation, FDIC)と呼ばれる預金保険があり、預金者にとって元本保証が付されているわけですが、この措置はいわば預金と似た保証をMMFに付したと解釈することもできます*20。図表4をみると、保証の公表後は取り付けが早く終息しているように見て取れます。さらに、MMFが前述のような形で事業会社等に資金融通をしていたわけですが、MMF市場から資金流出することで、事業会社等の資金調達ができないという状況が生まれました。これに対処するため、米連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board, FRB)がクレジット・リスクを引き受けることで、MMFが有する資産担保コマーシャルペーパー(ABCP)を額面で商業銀行に売却するスキームを立ち上げました。これをABCP-MMMF流動性ファシリティ(Asset-Backed Commercial Paper Money Market Mutual Fund Liquidity Facility, AMLF)といいます。ABCPとは、CPの一種ですが(ABCPについてはBOX 1をみてください)、ガイトナー(2015)は「高品質の資産担保コマーシャルペーパーの市場を復活されるための対策で、リザーブ・ファンドが額面割れしてからコマーシャルペーパーを処分し始めたMMFへの圧力を弱める狙いがあった」(p.257)としています。AMLFはコロナ禍で再び登場するので、少し丁寧に説明します。具体的なスキームは図表5に示されていますが、前述のとおり、MMFがABCPを保有しています。この購入を銀行に促すために、その資金を、ABCPを担保にすることでボストン連銀が貸し付けるというスキームです*21。ガイトナー(2015)は「資産担保コマーシャルペーパーをMMFから購入できるように銀行に融資し、この悪循環を食い止めるという、いささか回りくどい手法*22を用いる」、「連銀がそのリスクを負う」*23(p.258)と説明しています。すなわち、AMLFの導入によって、事実上、FRBは金融機関を経由してMMFからABCPを買い入れたとみることができます*24。MMFの保証は結局、発動されませんでしたが、バーナンキ(2015)などでは、主にこの二つの対策によりMMFの取り付けは沈静化したと整理しています。なお、本稿ではMMFという観点でAMLFのみに焦点をあてましたが、金融危機時にはプライマリー・ディーラーへの融資やCP向けのファシリティなど多数の措置が取られています。金融危機時に導入されたファシリティについては次回の論文でも取り上げますが、これらの詳細はガイトナー(2015)やバーナン
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