ファイナンス 2022年4月号 No.677
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3金融危機時におけるトライパーティ・レポ市場における取り付けと政府による対応2019201720162012201420102008200620042000200219981996199419931989199119871985198319791981197719731975(出所)FRED1971*11) 例えば、アーマー等(2020)ではデフォルトした有価証券などをスワップ・アウトなどの形で支援しており、20本以上のファンドを元本割れから救ったとしています。また、同書ではペニー・ラウンド・ルールと呼ばれる額面割れを回避するための措置が付されていたことも紹介しています。*12) シン(2015)では「M2は、小口の預金とMMFの投資口保有額を含むことから、最終的債権者が金融仲介セクター全体に対して持つ流動債権の総残高を良く近似している」(p.202)としています。*13) 宮中(2015)では、「金融危機当時のトライパーティ・レポは、取引を夜に開始し、朝に終了していた。レポが行われていない日中の資金繰りについてはクリアリング・バンク2社(BONY、JPモルガン)が信用供与(貸出)していた。(中略)すべてのレポを毎朝unwind(終了)する商慣行だった。これは、様々な担保証券を当事者のニーズに合わせて、毎日、最適に差し替える作業を効率よく行うためである」(p.140)と説明しています。図表3 米国MMF残高の推移(10億ドル)5,0004,5004,0003,5003,0002,5002,0001,5001,00050001970米国MMF(マネー・マーケット・ファンド)入門2.5  レポを通じたホールセール・ファンディングの拡大3.1 金融危機時におけるレポ市場価は変動し、特にCPなどで運用した場合、デフォルトのリスクもあります。そのため、MMFについては運用会社による支援が暗黙の前提とされており、しばしば運用会社がMMFの元本割れを防ぐということが行われてきました*11。このMMFの拡大とともに証券会社のホールセール・ファンディングも拡大していきます。シン(2015)では米国のプライマリー・ディーラーによるレポ取引と金融機関発行のCPの残高を、米国において主に預金とMMF等で構成されるM2と比較しています*12。シン(2015)によれば、1990年代初頭の場合、レポ取引と金融機関のCPはM2のわずか1/4でしたが、金融危機の直前である2007年8月時点では80%を超えるところまで増加したとしています。アーマー等(2020)によればレポ市場が拡大してきた要因は3点あります。第一の要因は機関投資家のプレゼンスの高まりです。前述のとおり1970年以降、MMFのプレゼンスが拡大していきますが、レポ取引を通じたファンディングは安全な運用をするMMFの良い受け皿になりました(本稿ではMMFに絞っていますが、1980年以降、様々な要因で機関投資家の運用が拡大していきます)。第二の要因は、前述のとおり、証券会社は預金による調達ができないため、レポがそのよい代替的な手段になった点であり、これも前述の点です。レポ市場が拡大した第三の要因は、レポの貸し手に対する債権は他の債権よりも回収が優先されるという倒産法上の措置です。前述のようにレポは担保付きの貸出なのですが、読者が担保をもらって貸出をした際、仮に相手がデフォルトしたとしましょう。この場合、デフォルトした企業に対して、読者以外に貸出をしている人もいることが普通ですが、当然読者として他の債権者に対して優先して返済されるかどうかが気になるはずです。アーマー等(2020)によれば、レポは「レポの貸し手は他の多くの債権者に対して『特別の優先債権者の立場』(super priority)を事実上享受」しており、「レポはより魅力的な短期投資の形態となる」(p.689)と評価しています。上述のように拡大していったレポ市場やMMFですが、その後、金融危機を経験して、大きな改革を迫られます。服部(2022)では、米国のレポ市場にはバイラテラル・レポとトライパーティ・レポがあり、トライパーティ・レポではクリアリング・バンクと呼ばれる銀行(主にJPモルガンとBNYメロン)が中間に入ることで、MMFなど幅広い投資家がレポ市場に参入することが可能になると説明しました。金融危機時に短期金融市場で大きな混乱が起きたのですが、特にトライパーティ・レポ市場で大きな問題が発生しました。前述のとおり、クリアリング・バンクがトライパーティ・レポで重要な役割を果たしますが、金融危機前は事実上、クリアリング・バンクが短期的な信用を行うということが商慣行として行われていました*13。金融危機時のニューヨーク連銀の総裁であったガイトナー氏によれば、「トライパーティ・レポで果たす役割は、ほとんどが事務作業だが、現金と証券のやりとりなしに、昼間の数時間(もしくは日中)、借り手

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