ファイナンス 2022年4月号 No.677
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*3) 企業が事業に必要な資金を調達するために発行する短期の無担保の約束手形を指します。*4) アーマー等(2020)ではホールセール・ファンディングを短期調達であることを前提に記載しているほか、バーナンキ(2015)でも、「短期の、保険無しの資金調達(中略)は、主に大口顧客を対象としたホールセール・ファンディングと呼ばれ」(p.182、上巻)と記載しており、ホールセール・ファンディングといった場合、短期の資金調達を指すことが通常です。*5) アーマー等(2020)では「ディーラーとその他の金融仲介業者にとって、ホールセール資金調達の二つの重要な供給源は、コマーシャル・ペーパーとレポである」(p.684)としています。*6) ホールセール部門は通常、プライマリー・マーケットを担う投資銀行部門とセカンダリー・マーケットを担うマーケッツ部門に分かれます。なお、証券会社そのものを投資銀行という表現をすることがある点に注意してください(その意味で、投資銀行の中に、投資銀行部門とマーケッツ部門があるともいえます)。(黒字主体)個人や機関投資家短期市場等入金MMFレポやCPの発行等によりで運用短期市場・レポ市場等資金調達証券会社や事業会社等(赤字主体)図表1 MMFのイメージ米国MMF(マネー・マーケット・ファンド)入門2.2 ホールセール・ファンディングとは2.3  ホールセール・ファンディングにおけるMMFの役割ここから証券会社のファンディングについて焦点を当てて考えていきます。銀行と証券会社は様々な資金調達手段を有していますが、銀行の場合、預金という特別な調達手段が存在します(銀行は預金を取り扱うがゆえ「預金取扱機関」とも言われます)。もっとも、証券会社の場合、そもそも銀行のように預金口座を開設することができませんから、預金を通じて資金調達はできません。そのため、証券会社は預金以外で資金調達をする必要があります。これまでの論文で説明してきたとおり、証券会社はマーケット・メイクをするうえで債券を在庫として保有しますから、保有する債券を担保に資金調達をすることができます。国債のような安全な資産を担保として出すことで預金に似た低い金利で資金調達をすることが可能になるわけです。これが服部(2022)で丁寧に説明したレポ取引でした。証券会社はレポ以外にもCP*3などの発行でも資金調達をしており、レポやCPなどを通じて短期*4の資金調達をすることを、金融の専門用語を使うと「ホールセール・ファンディング(ホールセール資金調達)」といいます*5。ホールセールという言葉は一般的にあまりなじみがない用語かもしれませんが、金融では(リテールではなく)「大手の投資家(機関投資家)」という意味合いで使われます。例えば、証券会社には通常、ホールセール部門*6と呼ばれる部門がありますが、リテール部門と横並びで表現されます。一方、伝統的な商業銀行が個人の預金で調達した場合、それは個人の預金を通じて資金調達をしているがゆえ、「リテール・ファンディング」ということがあります。ここからMMFの役割について考えていきます。服部(2022)ではMMFを通じてトレーダーがレポでファンディングする事例を取り上げましたが、これはホールセール・ファンディングの事例といえます。前述のとおり、MMFとは要は投資信託なのですが、国債やレポ、CPなど安全性の高い運用を行う主体です。MMFがレポで運用するとは、具体的には国債などの債券を担保として受け取り、短期の貸出をして運用しているイメージです(これを服部(2022)ではリバース・レポと説明しました)。図表1にイメージを記載していますが、例えば読者が証券口座を開き、MMFという投資信託に入金します。その投資信託は、短期国債やレポ、CPなど安全性の高い運用を行うことで、赤字主体である証券会社や事業会社等に資金が流れるわけです。図表2がMMFおよび商業銀行を経由した資金融通を比較した図です。上段がMMFを経由して赤字主体に資金が流れる動きであり、これがホールセール・ファンディングになります。一方、下段が伝統的な商業銀行を通じた資金融通であり、これがリテール・ファンディングに相当します。*7このような資金融通の構造をみると、MMFを通じた資金融通も多くの読者にとってなじみがある商業銀行を通じた資金融通に似た取引であると感じるかもしれません。そのため、MMFを経由したファンディングは、事実上の銀行と同じ機能を果たしていることから「シャドー・バンキング」という表現を用いることがあります。ファイナンスのテキストでは証券化や一部のフィンテックなどもシャドー・バンキングの一例

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