ファイナンス 2022年4月号 No.677
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*1) 本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。本稿につき、コメントをくださった多くの方々に感謝申し上げます。*2) 下記をご参照ください。 https://sites.google.com/site/hattori0819/MMF2.1 直接金融と間接金融2ホールセール・ファンディングと1はじめに本稿では米国の金融システムを理解するうえで必要となるMMF(Money Market Fund)の基本的な内容を整理することを目的としています。MMFとは国債やレポ、CPなど安全性の高い運用を行う投資信託です。米国では家計や機関投資家などが加入しているMMFの資金がレポやコマーシャル・ペーパー(CP)などを通じて赤字主体である企業等へ資金融通されています。本稿では、MMFの商品性ではなく、MMFが米国の金融システムにどういう影響をもたらしているかという点に焦点をあてます。本稿では、まずはそもそも銀行と証券会社(投資銀行)の資金調達構造の違いを説明したうえで、証券会社がMMFなどを経由した「ホールセール・ファンディング」に依存していることを説明します。「SOFR入門」(服部, 2022)でトライパーティ・レポを通じて証券会社がMMFからファンディングする例を取り上げましたが、MMFの拡大は金融機関の資金調達と密接な関係を有しています。ちなみに、我が国では銀行中心の金融システムを有しており、MMFのプレゼンスは小さく、MMFが話題になることはほとんどないといってもよいでしょう。なお、本稿はレポ取引の基本を前提とさせていただくため、必要に応じて筆者が記載した「SOFR入門」をご一読いただければ幸いです。また、筆者がこれまで執筆してきた一連の債券入門シリーズは、筆者のウェブサイトにまとめて掲載してありますので、そちらもご参照いただければと思います*2。本稿では金融システムにおけるMMFの役割について説明をしますが、まず、大きなイメージを掴むため、銀行と証券会社の資金調達の大枠を考えます。金融のテキストでは金融システムを考えるうえで「間接金融」と「直接金融」という言葉を習います。銀行は家計などの黒字主体から預金で調達し、赤字主体へ貸出等で資金融通します。この場合、銀行は資金融通の中間に入ることから、「間接金融」と呼ばれます。一方、「直接金融」の場合、企業や政府が資金調達をするうえで株式や債券等の発行し、投資家がそれを購入することで資金融通します。この場合、証券会社は有価証券の引受や販売等により、黒字主体と赤字主体を直接繋げるため、直接金融を担うと説明されます。金融論ではまずはこのように習うため、証券会社の貸借対照表(Balance Sheet, BS)は小さいという印象を持つかもしれません(筆者は少なくともそうでした)。しかし、実際に証券会社のBSをみるとその規模が巨大であることがわかります。前述の構図はあくまで債券や株式を新規で発行する発行市場(いわゆるプライマリー・マーケット)であり、証券会社は既発債を売買する流通(中古)市場(いわゆるセカンダリー・マーケット)を形成するためマーケット・メイクを行っています。証券会社は債券等を在庫として保有しているため、大きなBSを有しているわけですが、証券会社がマーケット・メイクを担っている点については「金利指標改革入門」(服部, 2021b)などでこれまで丁寧に説明してきました。東京大学 公共政策大学院 服部 孝洋*1金融危機以降の規制改革について-米国MMF(マネー・マーケット・ファンド)入門-ホールセール・ファンディングと

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