ファイナンス 2022年3月号 No.676
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6.さいごに~今後の財投について~-先生が財投を研究しようと思われたきっかけや、研究分野としての財投の面白さはどういったところにあるのでしょうか。財投改革のとき、私は研究者として駆け出しだったのですが、この駆け出しのタイミングで、財投がこれからどう変わるのかを考えるべきホットイシューであったというのがあります。また、私の研究業績に引きつけると、2006年に北海道夕張市が事実上破綻しましたが、実は夕張市に一番お金を貸していたのは民間金融機関ではなく財投だったのです。実は私は夕張ショックの前から地方債に注目をしていました。地方債の仕組みや課題を研究するにつれて、財投が深く関わっていることを知り、ますます財投の役割は重要だなというのを痛感した経験があります。この研究が、2007年に刊行した拙著『地方債改革の経済学』に結びついています。―財投が今後果たすべき役割はどういったところにあるとお考えでしょうか。財投改革後、民業補完に重きが置かれてきました一つのテーマを深く探求したいという気持ちは多くの人が持っているのではないかと思います。研究者という仕事は、他の人よりも時間と資源を投入することを許していただいて、一つのことをより深く探求できるところに醍醐味と面白さがあると思います。それが多くの人々の役に立てるのであれば、なおさら学者冥利に尽きるという訳です。学者も色々なスタンスの人がいて、多くの人が知りたいことを分析したり、潜在的に持っている気持ちを先取りして発信したりすることを得意とする人もいます。ただ私自身はそういったことはあまり得意ではなくて、他の人が気づいていないことを発見して、大衆受けしなくても事実はこうなんだという分析をする方が得意かなと思っています。学問的真理は、多数決で決めるものではありません。そういう意味では、共感されて「いいね」がいくつというのはあまり得意でないのですが、幸いにも「いいね」を沢山もらえなくても学者失格ではなく、失職しないで済んでいる訳で、そういったところも学問の一つの醍醐味でもあるのかなと思っています。研究者という職業は、仕事とプライベートの境目が曖昧で、毎日が平日といえば毎日が平日ですし、朝満員電車に乗って出勤しないという意味では毎日が日曜日といえば毎日が日曜日かもしれません。そういうところも一つの面白さなのかなと思っています。その中でも色々な方がいて、公私のオンオフが得意な方もいれば、仕事とプライベートの境目が分かりにくい働き方をする方もいます。私はどちらかというと後者に近いかもしれません。昨今働き方改革がよく議論されますが、私の場合は、自分のために時間を費やすところと、家族のために時間を費やすところをしっかり切り分けるように意識しています。変に自分のしたいことが心の中に多くを占めていると、例えば子供と接していても心ここにあらずという感じになって、逆に接しない方がいいということにもなってしまいます。仕事であれプライベートであれ、自分だけではない時間をどうやって確保するかということと働き方改革は心理面では繋がっているように思います。そういった踏ん切りが心の中でできれば働き方改革もすんなりいくのではないか、なかなかその踏ん切りがつかないから中途半端に働いている時間が夜まで食い込んでしまうのですが、自分のためだけでない時間を作ると自信を持って思えれば「今日は帰ります」と職場でも言える面はあるのかなと思います。コラム 研究者という職業の面白さ84 ファイナンス 2022 Mar.連載PRI Open Campus

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