ファイナンス 2022年3月号 No.676
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PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 5金融危機期の信用保証をどう活用するかについては、漫然と行うと本来救わなくてよかった企業も救ってしまう恐れもあります。ただ、今回の後藤論文では、そういうことではなく、保証するとしても企業の状態を見極めて行っており、総じて見れば良いパフォーマンスだったという分析がなされています。これは今後の危機対応業務に良い示唆を与えるものではないでしょうか。規律を保ちつつも救うべきところに支援を行うことが大事だと思います。危機対応業務は頻繁に起こってほしくはないのですが、財投改革後に危機対応を迫られたケースが、大きなものでリーマンショック・東日本大震災・コロナショックと立て続けに起こっていて、危機対応業務の体制もそれなりに確立していると思います。本特集号とは直接関係ありませんが、私が関わっている財投分科会でも、コロナ対策として資金繰り支援を行った企業の状況について、時間を割いて議論しています。日本銀行の金融システムレポートなどを見ても、貸し倒れで金融機関の自己資本が大きく毀損する状況になる要素は少ないとする見解も出ています。コロナの前から困っている企業まで支援しているというのではなく、コロナさえなければまた状況が回復すると見込まれる企業を支援している形になっているのではないかと思います。5.近年の財投のハイライト―2010年代は、低金利状況を活かし、インフラ整備に財投が活用されました。根本論文*7では老朽化したインフラ更新とその資金調達はどうあるべきかについて論じられています。根本先生は、PPP/PFIといったインフラ整備への民間資金の活用について第一線で研究されています。そのご経験からインフラ整備への財投の活用につき、コスト管理はもちろんのこと、必要なインフラをどう維持するかという、財投を措置するにあたっての大前提となるノウハウも示されていて、こうした知見を今後財投の現場でも積極的に活用していただく必要がある*7) 「インフラ老朽化対策と更新投資ファイナンスに関する考察」(https://www.mof.go.jp/pri/publication/nancial_review/fr_list8/r147/r147_05.pdf)*8) 「我が国における公的エクイティ性資金の機能の状況―官民ファンドの可能性とリスクについて―」(https://www.mof.go.jp/pri/publication/nancial_review/fr_list8/r147/r147_02.pdf)と思います。これに関連して、さらに私自身の考えを付け加えると、建設国債ではなく財投で賄うことのできるインフラ整備には、財投をより積極的に活用すべきではないかと思っています。建設国債の返済原資は、必ずしもそのインフラから直接受益しない人も含む全国民からの税金から賄われます。しかし、財投で賄われたインフラの返済原資は、基本的にそこでの事業収入がもとになります。そうすると、利用料金や運賃などの形で利用者が払った資金が元手となって返済され、より応益的な仕組みでインフラ整備ができ、それだけ建設国債よりも節度が高まります。しかも、財投では償還確実性が重んじられており、その点をどう担保するのかということをきちんと考えてもらうことができます。そういう利用者のニーズと緊張感を、財投を媒介としてインフラ整備に活用できるのではないかと考えます。―近年の財投では官民ファンドを通じた資金供給も大きな特徴であり、2019年には財投分科会で報告書がまとめられています。光定・川北論文*8では、官民ファンドに関する分析・検証が行われています。官民ファンドの成果と課題をまとめたと言える論文だと思います。財投分科会でも、官民ファンドの課題について、委員から厳しい指摘がなされる場面があるのですが、官民ファンドは財投改革の移行期を終えてから出てきた仕組みで比較的新しい活用方法であり、政策目的の達成と収益性の追求の両立という難しいハンドリングの中で苦労している部分も多いことなどにも配慮しつつなされている面もあります。一方、光定・川北論文は研究論文ということで、そういった遠慮はなく、研究者として客観的に分析・検証し、歯に衣着せぬ形で評価しているので、そうした指摘をしっかりと受け止めて次なる改善につなげていただければと思います。 ファイナンス 2022 Mar.83連載PRI Open Campus

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