ファイナンス 2022年3月号 No.676
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投融資を行わないという能動的な仕組みに変わりました。財投機関への投融資を柔軟に精査できるようになったという意味で、規律を持って運営するにはふさわしい仕組みとなっています。私は財投改革で受動的な資金調達から能動的な資金運用の仕組みに変わったことを「コペルニクス的転回」と形容したことがあるのですが、それを聞いて池尾先生からそれは褒めすぎだと言われたというエピソードもありました。ただ、それくらい大きく変わったということであり、そうした変化を経た財投の今日の姿を今回の特集号は浮き彫りにしていると思います。3. 財投改革後の地方公共団体向け 財政融資―財投改革の後、構造改革で地方公共団体への資金の流れも変わりました。冨田論文*3はそうした経緯について丹念に検証されています。財投改革から20年が経ち、省庁の方々もどういう経緯で今の仕組みになっているかを、先輩や上司から引き継いでいても、自分でリアルに体験した訳ではないという方も多くなっていると思います。そういった中で、この冨田論文でそのときの経緯を明らかにしていることは、地方公共団体向けの財政融資が大きなウエイトを占めていることも踏まえると重要なポイントだと思います。―地方公共団体向けの財政融資については、大野・石田・小林論文*4でも、土居先生がワーキングチームの座長を務めて作成に関わられた地方公共団体の財務状況把握の財務指標を用いた財政状況分析がなされています。この指標の元々の目的は、お金の貸出先である地方公共団体がどういう状況になっているかを掴むためということが基本ではあるのですが、指標を作るにあ*3) 「財投改革と地方債」(https://www.mof.go.jp/pri/publication/nancial_review/fr_list8/r147/r147_06.pdf)*4) 「財務状況把握の財務指標から見た地方公共団体の資金繰り状況」(https://www.mof.go.jp/pri/publication/financial_review/fr_list8/r147/r147_07.pdf)*5) 「農業分野における資金供給の効率性向上に向けた課題」(https://www.mof.go.jp/pri/publication/nancial_review/fr_list8/r147/r147_04.pdf)*6) 「政策金融としての信用保証による経済・金融への影響」(https://www.mof.go.jp/pri/publication/nancial_review/fr_list8/r147/r147_03.pdf)たっては公認会計士や民間の出向者の方にも携わっていただいていて、民間企業の財務分析の発想も入っています。単に足したり引いたり割ったりして出てくる数字ではあるのですが、実はより深い意味がそこにはあります。ただ、ルーティンワークではそうした深い意味を探求するのが目的ではないので、研究者が違った視点から分析し、同じ指標でもこういう風に見えるというのを示すことが今回の大野・石田・小林論文ではできており、新しい視点を提供してくれていると思います。4.公的金融ならではの役割―構造改革の結果、財投の大原則の一つである民業補完がよりハイライトされました。中田論文*5では、民間だけでは十分な資金供給が行われず公的機関の支援が必要とされる分野の例として農業をあげ、どういった公的な金融支援が行われているかについて丁寧に分析・整理されています。財投は伝統的に日本政策金融公庫などを通じて農林漁業金融に関わっています。今は農林漁業の世代交代も進みつつあり新しい展開が求められていますが、かといって政府が何もしなくても民間だけで世代交代をして稼げる農業になるかというと、必ずしもそうでもない面があります。稼げる農業に変わるための政策的な支援については一般会計予算でも行っているのですが、それ以外の金融的手法で財投から農業に関わるという点にも中田論文は目配りしており、そこに新規性があると思います。―2000年代後半以降は、リーマンショック・東日本大震災・コロナショックなどの場面で、危機対応業務が果たす役割も大きかったと思います。後藤論文*6はそういった危機の際の政策金融や信用保証の役割について検証されています。82 ファイナンス 2022 Mar.連載PRI Open Campus

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