ファイナンス 2022年3月号 No.676
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PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 51.はじめに~池尾先生との思い出~―今回の特集号は財政投融資(以下、「財投」)をテーマとしており、当初は財政制度等審議会財政投融資分科会(以下、「財投分科会」)の分科会長も務められていた池尾和人先生が責任編集者を担当されていました。残念ながら池尾先生が昨年2月に逝去され、責任編集者を土居先生に引き継いでいただき、今回の刊行に至ったという経緯があります。責任編集者を池尾先生から引き継がれた際の思いをお聞かせください。池尾先生とは1999年に私が慶應義塾大学経済学部で教鞭を執り始めて以来ご一緒させていただいていて、さらに2004年度から12年間、企業金融論という科目を一緒に担当させていただいておりました。共同して財投の研究をしたという訳ではなかったのですが、金融論と財政学の両方の間をつなぐ制度・仕組みとして、財投が池尾先生と私の研究分野の真ん中にあるような形でした。池尾先生は2001年の財投の抜本的改革の前から財投の新しいあり方に関する政府での議論に参画され、まさに今日の財投の制度設計に関わられていたという経歴も存じていました。2008年に私が財投分科会の委員を拝命してからは、キャンパスの中というよりは分科会の中で財投に関して深く議論させていただきました。このように池尾先生の研究者・教育者としての姿勢を近いところで拝見していて、FRの財投特集号の企画が組まれていることも存じていました。池尾先生が亡くなられた後、責任編集者を引き継いでもらえないかという話があった際には、これまでの池尾先生の思いを側で感じていた立場でもあるので、この特集号を刊行までたどり着かせることでせめてもの恩返しをしたいという思いで引き受けさせていただきました。―財投が土居先生の専門である財政学と池尾先生の専門である金融論の真ん中にあるということですが、研究をする上で池尾先生からインスピレーションや刺激を受けることはあったのでしょうか。お金の使い方に関する規律ということになるでしょ*2) 「序文」(https://www.mof.go.jp/pri/publication/nancial_review/fr_list8/r147/r147_01.pdf)うか。民間の金融も財政も英語で言えばファイナンスになります。ファイナンスするためには、社債であれ国債であれ、お金を提供される側が提供する側に対してそのお金が有効に使われていることを示さなければなりません。官民問わず、提供されたお金を漫然と好きなように使っていい訳ではなく、一定の規律が必要になります。その点は財政学も金融論も全く同じです。池尾先生はコーポレートガバナンス・コード作成にも中心的役割を果たされ、民間企業でのお金の使い方に関する規律を高めることに腐心されました。私は財政学の立場からですが、提供されたお金をどう有効活用するかしっかり考えねばならないとの思いを、池尾先生の背中を見て強く持つようになりました。2.本特集号の読みどころ―そうした経緯もあって刊行に至った今回の特集号ですが、政策担当者や一般の読者にとって、どういった点に着目すると有益な示唆を得ることができるでしょうか。今回の特集号は、財投の現代的な姿を浮き彫りにした論文が集められています。郵便貯金や年金積立金がそのまま使われているといった古い財投のイメージを払拭していただき、財投改革から20年経ってどんな姿になったのかを今一度ご覧いただくのに適したものとなっていると思います。もちろん課題もありますが、一定の役割を果たしていることが様々な分析から明らかになっています。先ほども申し上げましたが、規律をより重んじる形で制度が運用されているということが重要なポイントになっていると思います。今回の特集号の序文*2でも私は書きましたが、財投改革前の資金調達は受動的なものでした。郵便貯金や年金積立金の残高が増えると、預託義務に従って資金運用部資金(現在の財政融資資金)に資金が入ってきて、その資金を棚ざらしにする訳にはいかず、何とか運用先を見つけて貸さないといけないという面があったのです。しかし、今は正反対で、必要なだけ財投債で資金を賄い、不必要なら ファイナンス 2022 Mar.81連載PRI Open Campus

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