ファイナンス 2022年3月号 No.676
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らない。手探りですが、ライフサイエンスやバイオサイエンスはきっと将来のビジネスモデルに関係があるだろう、と多くの企業が社員を送り込んで自由に活動させています。6. SYONAI HOTEL SUIDEN TERRASSEサイエンスパークには、そこで働く研究者やその家族、視察や研修などに訪れる人々のための施設も充実しています。これらの企画・建設・運営を担っているのが、まちづくり会社「ヤマガタデザイン株式会社」です。この会社の社長はSpiber社の関山さんと同年代の山中大介さんで、慶應義塾大学藤沢キャンパスの卒業生です。彼はバイオが専門ではなくて、大学卒業後、大手不動産会社に7年間勤めた後、退職して家族と鶴岡に移り「SYONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE」をオープンさせました。彼は、都会的な開発はやりたくない、鶴岡で働くことやこの場所で暮らすことに豊かさを感じられるような空間にしたいと、木造にこだわり、低層にこだわり、全部を造成するのではなく田んぼや水との調和も大切にしました。サイエンスパーク内に宿泊施設をつくろうというときに、「普通は0点」ですから、坂茂さんというプリツカー賞を受賞された世界的に有名な建築家に設計をお願いすることになりました。木造風の田んぼに浮かぶホテル、というコンセプトで、かつ、温泉を掘って、源泉かけ流しで、露天風呂もあります。「サイエンスパーク」や「学園都市」というと、どうも日本では研究所の団地といったお堅い感じになってしまいますが、そこにワクワクするような感じが今一つ乏しいと感じていました。欧米の研究所はみな田舎町にあって、大学にはテニスコートが6面もあったり、インドアプールがあったり、レストランやバー、ゲームセンターがあったりします。そういったものをセットでアカデミアといいますが、日本人の感覚だと無駄使いではないかと考えられ、そのようなアメニティ、無駄と思われる部分がどんどん切られてしまいます。でも、優秀な研究者を獲得するためには、研究者本人だけではなく、家族にも「ここはいいなあ。」と思わせることが重要なことだと思います。山中さんはそれを理解して「SYONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE」を建てたのです。山中さんは、経済的な豊かさだけを追求することを是として競い合うということではなく、経済性と環境性と人間性のバランスを取りながら成長させていくことが、これからの人が生きやすい社会を作ることにつながり、何よりも地域資源に恵まれている地方都市に優位性があると考えています。7.地方の優位性を活かすケンブリッジ大学があるケンブリッジも、オックスフォード大学があるオックスフォードも、のんびりした田園都市ですし、シリコンバレーは何の変哲もない地方都市です。むしろ、首都圏に研究所や大学が集中しているのは、ちょっとナンセンスかなと思います。恐らく、先進国では日本ぐらいではないでしょうか。欧米先進国の大学や研究所は、大体地方都市にあります。私は、クリエイティブな仕事は東京ではなく、地方のほうが絶対によいと思っています。私たちはブレインストーミングというか、なにか良いアイデアを出し合うために合宿をするときは、普通、都会のビジネスホテルではなく、那須や軽井沢、箱根などに行って合宿をすると思います。それは、アイデア出しをするには、少しリラックスした環境で、みんなでワイワイやった方が良いことを知っているからです。地方の優位性はたくさんあって、自然がきれいだということもありますが、一番の優位性は通勤時間だと思います。地方では歩いて5分、自転車で5分、車で5分、長くても10分といったところでしょう。これまでは東京の大企業にネクタイを締めて電車に乗って通勤することが日本人にとってのステータスでしたが、毎日、往復2時間くらいかかります。これは、本当にもったいないことです。東京の大企業は本社機能の一部をどんどん地方に出すべきだと思います。その方が日本全体の効率は必ずよくなると思います。昔は図書館がないと研究できないといった時代もありましたが、今は論文をすべてイ78 ファイナンス 2022 Mar.連載セミナー

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