ファイナンス 2022年3月号 No.676
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財務総合政策研究所Ministry of Finance, Policy Research Instituteはじめに私は東京生まれ、東京育ちで、米国に10年間いました。慶應義塾大学の湘南藤沢キャンパス開校と同時に帰国して、2001年に慶應義塾大学が山形県鶴岡市に開設した先端生命科学研究所の所長に任命され、もう20年が経ちます。「日本の再生は地方から」と言われるように、自然豊かな地方が活気付くことが日本全体にとって重要だと思います。1. 「日本のため、人類のため」が地方を潤す地方創生というと、つい「人口減少を食い止める」とか、「経済が下り坂にあることを止める」とか、「弱者救済」の目線になりがちですが、私はそれでは日本の地方は再生しないと考えています。地方ならではの優位性があり、東京よりもよいものがたくさんあるので。それをうまく活かして東京ではできないことを地方でやる。そして自分の地方のためだけに行うのではなく、日本のため、人類のために産業を創るのだという、高い意識と志が重要です。そうでないと、地方間の競争に陥ってしまい、日本全体としてはプラスになりません。慶應義塾大学先端生命科学研究所から、世界が注目するベンチャー企業が次々と誕生しています。日本のサイエンスには足りないと言われがちなワクワク感が、研究者をはじめとする多くの人を集め、バイオベンチャーを育て、新しい技術と製品を生み出しています。そのうちのひとつ、世界的なベンチャー企業Spiber社には11か国から若い頭脳が集まっています。世界にここにしかない技術が彼等を惹きつけているのです。天然のクモの糸は、重さ当たりの強靭性が鋼鉄の340倍あるといわれています。枯渇が懸念されている石油を原料としないため、次世代の素材として期待され、20兆円の市場規模があるといわれています。鶴岡市が描いたのは、研究所から技術が生まれれば、鶴岡市でベンチャー企業が立ち上がり、まちが活気付くというものでした。地域のためということではなく、日本のため、ひいては人類、社会のためにゼロから産業を興す、それが結果的に地元も潤うことにもつながります。2.鶴岡サイエンスパーク2001年、鶴岡サイエンスパークに慶應義塾大学の研究所ができたときは一階建の建物しかなく、あとはすべて田んぼでした。当初、増築の計画はありませんでしたが、競争的資金が得られ、研究が増え、ベンチャー企業が立ち上がって、場所が足りなくなりました。そこで2006年に鶴岡市がいわゆるラボスペースの建物を建て、慶應義塾大学やベンチャー企業が有料で入居しています。2013年にはSpiber社の工場ができ、その2年後には6倍の大きさのマザー工場ができました。2018年には「SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE」という木造風の温泉ホテルと児童教育施設「KIDS DOME SORAI」もできました。冬でも楽しく遊べるようにできています。2022年には鶴岡市がもう一棟研究スペースを作る予定です。令和3年9月30日(木)開催上級管理 セミナー冨田 勝 氏(慶應義塾大学先端生命科学研究所 所長)地方都市鶴岡から創る、ニッポンの未来演題講師74 ファイナンス 2022 Mar.連載セミナー

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