ファイナンス 2022年3月号 No.676
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1. 世界のテロ組織の現状・資金規制の趣旨テロ資金供与規制について、まずは教科書的説明から入ろう。大前提として、テロ組織の維持にはカネがかかる。テロ組織が恒常的に支出していると思われる項目としては、(1)テロ行為自体(場所の下見や移動、武器の取得・運搬、身分詐称のための偽装工作、通信費等)、(2)宣伝工作・人員募集(現在ではネットの活用が多いが、大規模な組織では物理的な刊行物も出している)*1、(3)訓練(大規模な施設造営を伴う場合もある)、(4)構成員の給与等(遺族への手当てを含む)、(5)社会的活動(保健衛生・教育等の分野への貢献により、正統政府への間接的な打撃を与えることを目的とする)、といったものが考えられる*2。よって、資金源を効果的に剥奪することができれば、テロ組織には大きな打撃を与えることができる。この目的のため、組織犯罪への対抗を目的に確立されたマネロン規制の手法を、テロ資金の遮断にも応用することが考案された。*1) Financing of Recruitment for Terrorist Purposes, FATF, January 2018*2) Emerging Terrorist Financing Risks, FATF, October 2015図表2:地下資金の還流(概念図・再掲)テロ・核開発等犯罪ビジネス等合法な経済活動:資金の流れとは言え、テロリストがどのように資金を獲得しているかは犯罪組織以上に闇に包まれており、各国のインテリジェンス機関も、包括的かつ詳細な情報までは持ち合わせていない。もっとも、そのおおよその見取り図としては、公安調査庁が収集・公開しているデータを参考とし得る(図表3)。そして、テロ資金規制を理解するに当たっては、マネロンが対象とする犯罪収益とテロ資金、及び両者の規制態様の異同につき、正しく認識しておく必要がある。第一に、マネロンの対象となる犯罪収益は、その定図表1:アル・カーイダ及びISILに関連した、世界の主要テロ組織(出典:平成28年度版警察白書) ファイナンス 2022 Mar.67還流する地下資金 ―犯罪・テロ・核開発マネーとの闘い―連載還流する 地下資金

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