ファイナンス 2022年3月号 No.676
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肢があり、自分が欲しいものが災害直後などを除けば安定して、安価で供給されていたと思います。それを、私も含めて消費者は当然と受け止めていたというのは実はすごいことだったのではないかと思います。消費者の目には見えづらいところにある物流や商品供給の底力を感じます。ただ、他国でインフレが長く続いている中で、日本のみほとんどインフレがないといった状況が長期的に続くことをどうとらえたらよいのだろうか、ということもこの2年半を通じて何度も気になったところです。国力について物価から直接言えることは多くないのかもしれません。それでもこのまま他国との間で物価差が開いていくような状況が続いた場合に、例えばiPhoneなどの人気アメリカ製品を日本で働く人はいつまで購入しつづけられるでしょうか?若い人が海外留学を検討する際に、今でも高い学費や生活費がさらに上がったらどうなるでしょうか。このような形で、じわじわと人の生活や可能性に与える影響というのも見過ごせないのではないかと思います。物価上昇があることを前提とする国・ないことを前提とする国では社会の仕組みも、そこに生きる消費者のセンチメントと行動も変わってきます。桜は、冬に一定期間の低温を経験することが刺激となって休眠打破し、春に花咲くと言われます。同じように、長い低インフレ時代が次に日本が世界で花を咲かせる際の何らかの刺激、日本らしい形での社会形成の時間となっているのであれば、と願うばかりです。もう少しで110年前(1912年)に日本から贈られた桜が今年も咲き誇るはずのワシントンにて。(写真は2021年3月、筆者) ファイナンス 2022 Mar.65海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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