ファイナンス 2022年3月号 No.676
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なることで家計負担が大きくなり得るということも改めて実感しました。こうしてみると、一口でインフレと言っても消費者の目から見ると「時折、一部商品の単価が上がる状況」、「モノや流通が滞って生じる支出増」、「様々な商品価格の一斉値上がり」は異なる事象で、それらが2年半の間に折々起こっていたことに気づきます。 5 おわりに本稿では、物価上昇という切り口で、この2年半ほどの米国生活と、15年ほど前に住んでいた頃との違いから気づくことなどを消費者の目線で取り上げてみました。日本で身近に感じやすい食品の支出についてやや詳しく記しましたが、CPI計算上の支出に占める食品の割合が日本では23%(2020年平均)と一大項目なのに対して、米国は8%に過ぎません。外食費を加えても、日本の27%に対して米国は13%です(表4参照)*3。【表4】 日米のCPIの構成品目のウエイトを比較すると、両国の「食費(食品と外食費)」と「住居」を合わせたウエイトはほぼ同じ(半分弱)なのだが、日本では消費支出に占める食品の割合が大きい。(注)この表は、米国はBureau of Labor StatisticsのRelative Importanceデータ(2022年1月公表の2021年12月分データ)、日本は総務省統計局公表の消費者物価指数の「ラスパイレス連鎖基準方式による品目別価格指数・寄与度」データ(2021年12月公表分)を元に、筆者作成。住居は、持ち家の帰属家賃を含む。食品8%外食5%住居33%その他54%米国(2021年12月)食品23%外食4%住居22%その他51%日本(2020年平均)その一方で、米国では住居費の割合が33%と日本(22%)に比べてずっと大きいです。住居費については、地価は上がって当然という意識があることに加え、米国の慣行が、先に述べたように家主に有利に働きがちで、家賃価格を上げやすい環境であるというのは特徴的かと思います。*3) 日米の食品に対する支出割合がこんなに違うものかと気になり、念のため総務省家計調査報告などで日本の直近(2021年12月分)の消費支出の内訳等も見てみたのですが、二人以上の世帯の消費に占める食料の割合が31.4%、交際費等を除いて算出されるエンゲル係数が28.9%なので、持ち家の帰属家賃などを加味すると整合的なのかと思われました。最近、良いインフレ・悪いインフレといった議論をよく見聞きしますが、(足元の7%超というインフレ率が良いのかどうかは別として)アメリカは経済成長と物価上昇を両輪のようにして走らせることにある程度成功してきた国で、それに合わせて国民の感覚が培われ、インフレを前提にした社会の仕組みづくりをしてきた国なのだ、と言えるでしょう。インフレがあって当然とされる国の中では、住宅市場や郵便行政などそれぞれの分野で物価上昇に対応した仕組みを作っています。消費者には基本的にモノは早い(安い)うちに買おうという意識が染みついていて、それが消費や投資を行う推進力になっています。日用品を売るスーパーでは、価格をできるだけ保とうと努力していますが、それでも少しずつ個々の商品の値段は上がる、というのが日常的な光景です。ただ、足元で進行しているインフレは、多岐にわたる商品の短期間での価格上昇を伴っているという点で、これまでのものとはやや違うようです。最近では、「給与の伸びがインフレのスピードに追い付いていない」、「一部企業が人手不足も相まってインフレに先行して給与を上げていることも物価上昇圧力となっているようだ」、「家賃も食費も上がる中で低所得者の生活が特に圧迫されている」等のニュースを聞かない日がありません。また、日本ほど流通がスムーズでないこの国では、商品価格の上昇だけでなく、店頭での欠品や流通の滞りも消費者の支出増要因となりえます。更に、一たび需給が崩れると、特にインターネット上では食品であっても市場原理に基づいてとても高額になることを目の当たりにしました。こうした点もなんともアメリカらしいな、というのが2年半ほど過ごして実感したことです。日本については、2019年夏以来帰国のチャンスがなかったのでコロナ禍になってからの状況というのは身をもっては知らないですし、ましてや今話題となっているインフレについて語る術は持たないのですが、少なくとも2019年夏までの日本では、買い物の選択64 ファイナンス 2022 Mar.連載海外 ウォッチャー

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