ファイナンス 2022年3月号 No.676
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でした。職場の食堂で食べても、外で軽食をテイクアウトしても、日本の調子でサンドイッチとサラダでも手にしようものなら税やチップを含めると15~20ドルくらいは簡単に行ってしまいます。感覚的には、日本の1.5倍から2倍くらいの金額は何事にも覚悟しなければいけない感じです。日本からアメリカに学生などとしてやってくると、今の米国での生活は金銭的にもかなり厳しいものがあるのではないか、日本の若い人たちには外に出づらい環境になっているのではないかということが気になりました。私の留学時代にも、思い出してみると確かに外食費は手痛い出費でしたが、今ほど極端に高いと思った記憶はありません*1。ただ、日米のこの間(約15年)のインフレ率の違いを考えると、これくらいの物価の違いは出ていてもおかしくありません。日本のインフレ率が0%前後を推移していた間、米国は約2%のインフレが続いていました(表1参照)。大学時代の恩師がよく、「毎年3%の伸びでも15年経つと1.5倍になる」と言っていましたが、まさにそれを物価において実現しているのがアメリカ、ということでしょう(表2参照)。【表2】2000年の日米の物価及び一人当たり実質GDPを100とすると、米国では物価の伸びがGDPの伸びを上回っているのに対して、日本ではGDPが伸びていても物価がほとんど上がっていない状況が見て取れる。8013012512011511010510095908520012006201120162021(出典)IMF, World Economic Outlook Database, October 2021を元に、筆者作成。米国日本2000年の一人当たり実質GDPを100とした時の推移601801601401201008020012006201120162021米国日本2000年の物価を100とした時の物価水準の推移*1) この点についてThe Economistの出している著名なビックマック指数(The Big Mac Index)を見てみると、直近の2021年6月のビックマックの価格は日本で360円、米国で5.65ドル(為替レート109.94円/ドルを加味すると620円位)で、日本から見るとアメリカの値段は約1.7倍になります。ちなみに留学中だった2005年5月のデータを見ると、日本で250円、アメリカで3.06ドル(当時の為替レート106.72円/ドルで327円位)、で約1.3倍でした。日本はどうかというと、その間とても低いインフレ率が続いていました。そして、その間、(賃金が上がらない中で)「値段を上げる」というのは消費者のことを考えていない、がめつい、あるいは企業努力が足りないといった負のニュアンスでとらえられることが多かったように思います。他方で、こちらで生活してみると、あとで詳しく記しますが、値段が変わるのは当たり前です。そんなに値上げがされると生活面でも大変なのではないかという心配が出てきそうですが、年2~3%程度の物価上昇は社会の一般感覚としても当然のものとして受け止められていて、周囲と話していても「まぁ、仕方ないよね」。この社会では、物価が上がるのに賃金を上げないと良い人材は獲れないとの理屈で景気の良い企業は給与水準もどんどんと上げていくし、所得税の毎年の控除額もインフレ調整されるし、それ以外にも社会のいろいろなところにインフレが当たり前のものとして入り込んでいます。例えば、住居。以下、少し具体的にどのようなインフレに対応した対応がなされているのか記してみたいと思います。 3 インフレが前提に組まれた社会(上がるのが当然の家賃)こちらに来て最初にしたことの一つが家探し。任期が3年で途中での引っ越しはできるならば避けたかったので、3年契約ができる家を探しました。こちらでは1~2年の契約が一般的と聞いたものの、家主も新しい貸借人を探す手間がかからないので3年程度の契約を望む人は多いのでないかと思っていたのですが、、、どっこい。一般の家屋(一軒家)については、ワシントンDCという地域柄、政府や国際機関の関係者が、自分達が海外勤務になって不在の間に自分の住まいを貸し出すケースが多く、「たぶん3年貸し出せるけれども、もしも自分達(家主)が早めに帰任することになったら ファイナンス 2022 Mar.59海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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