ファイナンス 2022年3月号 No.676
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美術館・博物館の来場者数増加に向けて(2)・「寄贈」については、コレクターへのアンケート(図表8,9)から、促進の余地があることを窺い知ることができる。日本のコレクターは、所有している作品の「保管」について、様々な観点から負担を感じているということが分かる。また、作品の「展示」については、一定のニーズが存在していることが読み取れる。これらの課題は、作品の「保管」「展示」がコレクターによって行われるのではなく、美術館・博物館によって行われることで同時に解消されていく可能性がある。・文化庁主催のシンポジウム〈芸術資産をいかに未来に継承発展させるか〉によると、アメリカでは、故人から美術館への「寄贈」が19世紀以来広がり、メトロポリタン美術館のような大コレクションが形成されたという。メトロポリタン美術館はコレクターとの繋がりを深めるため、定期的にコレクターをパーティーへと招待し、学芸員らと美術や「寄贈」について意見を交わす場を設けている。日本においても、コレクターと美術館・博物館による日常的なコミュニケーションの機会を作り出すことが必要である。・第二に、美術館・博物館が広報活動を強化して、所蔵作品の価値を伝えることが必要と考える。アート東京・芸術と創造が行った調査によると、人々が展覧会を訪問する動機となる項目(図表10)の上位として、「世界的に有名な作家」や「まれにしか公開されない作品」など作品に関する項目に加えて、「チラシ・ポスターが魅力的」という情報発信に関する項目が含まれている。美術館・博物館が、来場者の増加を目指すにあたっては、収集活動を強化することに加えて、広報体制を強化していくことが必要だろう。(図表8)保有している「美術品」の課題(n=92、美術品を保有していると回答した企業)3718.57.62.21.122.8適切な状態で保管できていない管理・保管コストが高い取得金額を把握できない修繕コストがかかる適切な売買経路が分からないその他010203040(%)(図表9)美術品を購入した後で悩むこと(n=435、購入経験がある個人コレクター)自宅での保管スペースがない29.428.327.126.722.321.320.512.630.8現在の資産価値が分からない周りにお披露目する機会がない売却したいが面倒絵を飾るスペースがない今までの購入金額が分からない今までの購入作品を分からない今後の購入資金が工面できない特にない051015202530(%)(図表10)どのような展覧会を訪問したいか(n=7,941)47423838363619111010世界的に有名な作家海外の有名な美術館のコレクション自分が以前から好きな作家まれにしか公開されない作品チラシ・ポスターが魅力的ゆっくりできるマスメディアで特集されている自分の好きな有名人・芸能人自由に写真撮影ができる友人・知人から紹介された01020304050(%)(出所)デロイトトーマツ「文化経済戦略推進事業『民間企業の美術品コレクションの形成と活用を通じた文化への投資が継続的になされる仕組みの創出に向けた実証調査』」、株式会社between the artsによるアートコレクターの実態調査(2021年12月15日)、アート東京/芸術と創造「日本のアート産業市場調査2020」日本の美術館・博物館の発展に向けて・以上のように、収集活動と広報活動の強化を行うことによって、常設展に注目を集めることができれば、来場者数が増加し、日本の美術館・博物館は法律で求められる本来の役割を果たせるようになる(図表11)。・また、来場者数の増加により「展示事業等収入」が増加すれば、美術館・博物館はその収入を「公的購入」に回すことができるようになる。来場者としては、美術館・博物館を訪れる度に、新しい作品に触れることができるのであれば、繰り返し美術館・博物館を訪問するきっかけとなり、それがさらに美術館・博物館の収入を増加させるといった好循環を生み出すだろう(図表12)。・さらに、来場者数が増加することで、美術館・博物館の注目度が上昇すれば、日本の美術館・博物館は日本の観光名所として、その役割を拡大させることができるのではないだろうか。『外国人旅行客が訪日旅行に期待すること』(図表13)を見ると、「美術館・博物館等」を挙げる割合は一定程度存在することが分かる。このことからも美術館・博物館は、外国人旅行客からインバウンド収入を獲得することに大きく貢献できるコンテンツであると言える。・日本の美術館・博物館が、『世界で最も来場者数の多かった美術館・博物館ランキング』(図表2)の上位に含まれる日が、近い将来訪れることを期待したい。(図表11)美術館・博物館に求められる行動と関係図画廊・オークション等美術館・博物館来場者コレクター購入寄贈or公的購入日常的なコミュニケーションの機会公的購入入場料広報活動(図表12)美術館・博物館の収入増加を生み出す好循環公的購入の増加所蔵作品数の充実美術館・博物館の魅力向上来場者数の増加入場料収入の増加(図表13)外国人旅行客が訪日旅行に期待すること(n=6,311、2020年1~3月期)69514440262422191818日本食を食べることショッピング自然・景勝地観光繁華街の街歩き温泉入浴日本の酒を飲むこと日本の歴史・伝統文化を体験美術館・博物館等旅館に宿泊日本の日常生活体験010203040506070(%)(出所)観光庁「訪日外国人消費動向調査」 (注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。 ファイナンス 2022 Mar.53コラム 経済トレンド 93連載経済 トレンド

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