ファイナンス 2022年3月号 No.676
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コラム 経済トレンド93大臣官房総合政策課 川原 竜馬/楠原 雅人日本の美術館・博物館の発展に向けて本稿では、日本の美術館・博物館における現状と課題、発展に必要な施策について考察する。日本の美術館・博物館の現状・『世界で最も来場者数の多かった展覧会ランキング(2019年)』(図表1)を見ると、例年同じように日本の美術展が上位に含まれており、日本人は美術展を好んで訪れる傾向にある。日本の美術展は、海外から作品を借りて展示する企画展が中心であることから、限られた展示期間に来場者が集中することが、その要因となっている。・一方で、『世界で最も来場者数の多かった美術館・博物館ランキング』(図表2)を見ると、日本の美術館・博物館は上位に含まれていない。これは日本の美術館・博物館が、企画展を実施していない期間に来場者を集められていないことを示している。・『国立美術館収入内訳』(図表3)を見ると、国立美術館は全収入のうち、過半となる61%の割合を「公的支援」によって賄っており、入場料収入を含む「展示事業等収入」が占める割合は22%となっている。「展示事業等収入」の内訳を見ると、入場料収入の割合が高く、来場者数が増加すれば、「展示事業等収入」の増加を通じて、収入の増加が期待できることが分かる。(図表1)世界で最も来場者数の多かった展覧会ランキング(2019年)順位人/日展覧会名開催地111,380人ドリーム ワークス展ブラジル銀行文化センター/ リオデジャネイロ29,277人ドリーム ワークス展ブラジル銀行文化センター/ ベロオリゾンテ39,172人アイ・ウェイ・ウェイ展ブラジル銀行文化センター/ リオデジャネイロ48,931人ムンク展東京都美術館57,808人クリムト展東京都美術館67,735人ツタンカーメン展ラ・ヴィレット77,697人国宝 東寺展東京国立博物館87,026人バスキア/ エゴン・シーレ展フォンダシオン ルイ・ヴィトン96,188人ダイアン・アーバス展スミソニアン・アメリカ美術館106,019人リアリズム50年展ブラジル銀行文化センター/ リオデジャネイロ(図表2)世界で最も来場者数の多かった美術館・博物館ランキング(2019年)順位所在地美術館・博物館名年間入場者数1フランスルーブル美術館9,600,000人2中国中国国家博物館7,390,000人3ヴァチカン市国ヴァチカン美術館6,882,931人4アメリカメトロポリタン美術館6,479,548人5イギリス大英博物館6,239,983人6イギリステートモダン6,098,340人7イギリスナショナル・ギャラリー6,011,007人8ロシアエルミタージュ美術館4,956,529人9スペインソフィア王妃芸術センター4,425,699人10アメリカナショナル・ギャラリー・オブ・アート4,074,403人(図表3)国立美術館収入内訳(2019年)(上:全収入、下:展示事業等収入)公的支援61%展示事業等収入22%その他17%61%20%11%8%0%入場料収入公募展事業収入その他事業収入不動産賃貸借収入受取利息・雑益(出所)The Art Newspaper「Exhibition and museum visitor gures 2019」、独立行政法人国立美術館「第19期事業年度(令和元年度)決算報告書」より筆者作成)美術館・博物館の来場者数増加に向けて(1)・企画展を実施していない期間に来場者を集められていないということは、常設展を訪れる人が少ないということを示している。・日本の美術館・博物館について、『独立行政法人国立美術館法』(図表4)および『博物館法』(図表5)は、その役割を「資料を収集・保管・展示」すること、「芸術その他の文化の振興・発展に寄与」すること、と掲げているが、これまで見てきた日本の美術館・博物館における現状を鑑みると、日本の美術館・博物館が法律で求められた役割を果たせているとは言い難い。・こうした状況を改善する方法として、第一に、美術館・博物館が作品の収集活動を強化して、常設作品を充実させることが必要と考える。作品の収集活動は、主に「公的購入」「寄贈」の2つに分けられ、「公的購入」とは、美術館・博物館が作品を所有者から購入することを指し、「寄贈」とは、所有者から作品を譲り受けることを指す。・「公的購入」については、『公的購入額の推移』(図表6)を見ると、美術館は作品の購入額を増大させていることが分かる。一方で、『所蔵作品展における来場者数の推移』(図表7)を見ると、来場者数の増減には波があり、継続的な増加傾向ではないことから、現状で「公的購入」の増加が来場者数の増加に結びついているとは言い難い。しかし、購入作品が将来的に注目を集める可能性については否定できない。作品購入に際しては、その価値を慎重に判断する必要があるものの、有望な作品を予算の範囲内で幅広く購入することは続けていくべきである。(図表4)独立行政法人国立美術館法(平成十一年法律第百七十七号)(国立美術館の目的)第三条 独立行政法人国立美術館(以下「国立美術館」という。)は、美術館を設置して、美術(映画を含む。以下同じ。)に関する作品その他の資料を収集し、保管して公衆の観覧に供するとともに、これに関連する調査及び研究並びに教育及び普及の事業等を行うことにより、芸術その他の文化の振興を図ることを目的とする。(図表5)博物館法(昭和二十六年法律第二百八十五号)(この法律の目的)第一条 この法律は、社会教育法(昭和二十四年法律第二百七号)の精神に基き、博物館の設置及び運営に関して必要な事項を定め、その健全な発達を図り、もつて国民の教育、学術及び文化の発展に寄与することを目的とする。(博物館の事業)第三条 博物館は、前条第一項に規定する目的を達成するため、おおむね次に掲げる事業を行う。一 実物、標本、模写、模型、文献、図表、写真、フィルム、レコード等の博物館資料を豊富に収集し、保管し、及び展示すること。(図表6)公的購入額の推移04,5004,0003,5003,0002,5002,0001,5001,00050020072008200920102011201220132014201520162017201820192020(百万円)公的購入額(図表7)所蔵作品展における来場者数の推移01601401201008060402020072008200920102011201220132014201520162017201820192020(万人)来場者数(出所)独立行政法人国立美術館 各事業年度の「決算報告書」「業務実績報告書」より筆者作成52 ファイナンス 2022 Mar.連載経済 トレンド

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