ファイナンス 2022年3月号 No.676
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への留学、および、(3)2022年5月までに行われる予定の豪州連邦総選挙の3つの視点から考察する。1.鉄鉱石を通じた結びつきの見通し第3章で述べたとおり、中国にとって豪州は鉄鉱石の最大輸入先国(図7)であり、現状、鉄鉱石は中国の貿易制裁の対象とはされていない。一方、豪州にとっても中国は鉄鉱石輸出額の約8割を占める最重要輸出先国であり(図24)、その額は豪州の財輸出額全体の約26%を占める(2020年)。そのため、何らかの要因によって中国の豪州産鉄鉱石輸入が大幅に落ち込んだ場合、豪州経済に与える影響はこれまでの制裁対象とは比にならない。場合によっては、豪州の中国への強硬な態度に影響を及ぼすことも考えられる。では、中国が豪州からの鉄鉱石輸入を減少させる可能性はあるのか。中国が豪州への鉄鉱石依存から抜け出すことは短期的には容易ではない。代替先候補となるブラジルでは、2019年に鉱山事故が発生、中国鉄鋼最大手が鉄鉱石鉱山の大規模開発を進めるアフリカのギニアでは、2021年にクーデターがあるなど、代替先の確保は困難を極めている。一方で、長期的な視点でみると、近年、中国は重厚長大産業から、ハイテク・ネット産業への力点を移すとともに、投資主導型から消費主導型経済への移行を目指している。2021~2025年の第14次5カ年計画においても、産業基盤の高度化、産業チェーンの現代化、デジタル化の発展に加え、2030年までの温暖化ガス排出量のピークアウトを掲げ、粗鋼生産量の抑制を発表している。そのため、今後中国による鉄鉱石輸入は徐々に縮小していくと考えられる。また、世界的に産業構造の転換や気候変動対策が進む中、全体の約8割を占める中国の代替先が大麦や石炭のように見つかるかどうかは不透明である。以上より、短期的には中国の豪州産鉄鉱石輸入が大きく減退することは考えにくいものの、中長期的には鉄鉱石輸入量の減少が見込まれる。こうした流れは長期的に見れば豪州の鉄鉱石を通じた中国への交渉力の低下、中国との経済的な結びつきの希薄化につながり、豪州の対中姿勢に影響を与え得ると考えられる。2.中国から豪州への留学の見通し先述のとおり、財輸出における鉄鉱石と同様に、中国への留学サービス輸出は豪州のサービス輸出にとって重要である。豪州への留学生の約30%(図25)を占める中国からの留学は、パンデミック以前(2019年)、豪州のサービス輸出額全体の約17%を占めていた。しかし、豪中対立が続く中、新型コロナウイルス感染症が収束し渡航規制が解除された後、果たして中国人留学生はかつてのような規模で豪州に再び戻ってくるのであろうか。2020年6月、中国文化観光省と中国教育省が相次いで新型コロナウイルス感染症拡大に伴いアジア人に対する差別的な事件が多発しているとして、豪州への渡航、留学のリスクについて見極めるよう中国人旅行者・中国人学生に警告する声明を発表。これに対して、バーミンガム豪貿易・観光・投資相(当時)は「中国政府の主張は誤り」と主張。感染状況が落ち着けば、「安全」な豪州はあらゆる人々の訪問を歓迎すると述べた。一方で、豪政府は中国による豪州の大学への干渉を警戒。2021年6月、豪州大学内で中国や中国共産党を批判する学者の学問の自由が危機にさらされているという報告書を人権NGOヒューマンライトウォッチが公表。同年11月、渡航再開に向け、豪州政府は大学に対する外国の干渉に対抗するためのガイドラインを公表。2020年以降、確かに中国人留学生数は減少傾向にあるものの、新型コロナウイルスの影響を受け、留学(図25)豪州留学生の主要出身国の推移(2002~2021年)0806070504030201020212002200320042005200620072008200920102011201220132014201520162017201820192020(万米ドル)(年)(出典)豪州教育訓練省ブラジルマレーシアベトナムネパールインド中国全体29.8%(2020年)(図24)豪州の鉄鉱石主要輸出先国の推移(2001~2020年)090070050080060040030020010020022001200320042005200620072008200920102011201220132014201520162017201820192020(億米ドル)(年)(出典)UN Comtrade Database中国日本韓国全体48 ファイナンス 2022 Mar.SPOT

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