ファイナンス 2022年3月号 No.676
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る。「不動産」は、対内直接投資(図14)に計上されないため、豪州の「不動産」に対する中国の熱心な投資実態が隠れてしまっていたのだ。事実、中国の投資承認全体額が6位となった2020年においても、不動産投資の承認額では中国は3位と上位を維持している。4豪州国民の対中認識(世論)ここまで豪中関係について、政治・経済という観点からみてきたが、以下では、豪州国民の対中認識について概観する。豪州の独立系シンクタンク、ローウィー研究所が、2021年3月15日から29日にかけて、無作為に抽出された豪州の成人2222人を対象にオンライン調査と電話インタビューで実施した全国調査「Lowy Institute Poll 2021」をもとに紹介したい。1. 世論調査(1)「中国は経済パートナーか、安全保障上の脅威か」豪州国民の対中認識を知るには図17の世論調査が有用である。中国による内政干渉が問題視されるようになった2017年頃においても、依然として大半の回答者が中国は安全保障上の脅威ではなく経済パートナーであるという認識を持っている。これは中国との密接な経済関係に伴うリスクを認識しつつも、中国との関係深化による経済的メリットが当該リスクを上回ると感じていたのではないかと推察される。しかし、2020年には中国を経済パートナーだと思う回答者の割合は大きく減少し、安全保障上の脅威だと思う回答者の割合が大きく増加した。そして、2021年には後者の割合が前者の割合を大幅に上回ることとなった。(図17) 世論調査「豪州にとって中国は経済パートナーか、安全保障上の脅威か」77.479.081.854.834.114.812.611.941.163.13.94.80.32.61.3090705080604030201020152017201820202021(%)(年)(出典)ローウィー研究所経済パートナーだと思う安全保障上の脅威だと思う同じくらい2.世論調査(2)「対中意識に影響を与えた要因」では、上記のような豪州国民の対中意識の変化にはどのような要因が影響を与えたのだろうか。次の世論調査を見てみよう。次ページ(図18~図23)は、各項目が中国に対する見方に良い影響を与えたか、悪い影響を与えたかについて、2016年と2021年の調査結果を比較したものである。この5年の間に、全ての項目において中国に対する見方がより悪化したことが分かる。まず、中国の政府システム(図18)や周辺地域における中国の軍事行動(図19)については、特に悪影響を与えたという見方が強く、回答者の9割以上(2021年)が否定的な回答をしている。しかし、こうした傾向は5年前から大きく変化している訳ではない。次に、中国の豪州に対する投資(図20)については、2016年時点で既に約6割が「悪影響」と回答している。これは先述した中国から豪州への活発な不動産投資が、豪州における住宅価格高騰と結び付けられて考えられる傾向にあったことが一因と思われる。2021年の調査ではさらに悪化し、8割弱が悪影響と回答した。2016年と2021年を比較して悪化が最も目立つのは、中国の経済成長(図21)に係る認識である。2016年当時は「良い影響」という回答が大半だったにもかかわらず、2021年には「悪影響」との回答が(図16)中国のFIRB分野別投資承認額の内訳(2019年-2020年)(出典)FIRB(億豪ドル)不動産71.1製造・電気・ガス19.4資源8.4サービス15.4農林水産 3金融・保健10.3(図15)FIRBによる外国投資承認額の主要国国別推移2013-20142014-20152015-20162016-20172017-20182018-20192019-2020米国日本シンガポールカナダ中国香港0700600500400300200100(億豪ドル)(出典)FIRB46 ファイナンス 2022 Mar.SPOT

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