ファイナンス 2022年3月号 No.676
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先への石炭輸出が順調に推移。新型コロナウイルス感染拡大後に落ち込んだ石炭輸出額も2021年5月以降の輸出額急伸によりパンデミック前の水準まで回復。一方、中国もそれまで輸入の4割を占めていた豪州産石炭の輸入を停止した後、代替先としてインドネシアやロシア等からの輸入量を増やしている。しかし、石炭の供給不足や石炭価格高騰等により、中国では電力不足が深刻化し、各地で停電が相次いでいる。こうした中、2021年10月、中国は、非公式に輸入を禁止してきた豪州産石炭を保税倉庫から放出する動きを見せ始めた*13。ただし、今後豪州からの石炭輸入を中国が本格的に再開するかは依然として不明である。いずれにせよ、豪州にとって中国による石炭輸入停止の影響は限定的である。以上より、ワインについては制裁の効果が一定程度出ているものの、ワインの豪州輸出額に占める額はごくわずかであり、より輸出額の大きい大麦や石炭については豪州が代替先の確保により中国の抜けた穴を補うことができていることから、2020年以降の一連の制裁措置が豪州貿易に与えた影響は限定的であると言える。この点、フライデンバーグ豪財務大臣も、他国による輸入増などの相殺効果により自国経済に深刻な影響は出ていないとの認識を示している。*13) 「中国、港に足止めの豪州産石炭を活用 電力不足で=業界筋」(2021年10月6日、ロイター)(https://jp.reuters.com/article/china-power-coal-idJPKBN2GW033)*14) FIRBは、外資による取得および買収に関する法律(Foreign Acquisitions and Takeovers Act 1975)等の対象となる外国人または外国機関により申請された投資の審査及び財務省に対する助言を行う豪州の法定外機関である。 (出典)Foreign Investment Review Board HP「About FIRB」(https://rb.gov.au/about-rb)*15) なお、FIRBの審査の対象となる投資は、農業、メディア、通信、その他事業に関する一定額以上の有価証券及び事業資産の取得、又は豪州の農地、鉱山、住宅地等の土地の取得である。*16) 本データの主な留意点は以下の通りである。その他詳細な留意点についてはFIRB「Annual Report」を参照。 複数国にまたがる投資については、それぞれの国において1つの承認された投資としてカウントされる。 中国のデータには特別行政区(SAR)と台湾は除外される。2. 対内投資 ―二つの統計からみる中国の投資(1)対内直接投資豪州に対する対内直接投資額上位国の推移(図14)をみると、中国の投資額は徐々に増えてはいるものの、順位は相対的に低く5位、6位を推移している。このデータだけ見れば、対内直接投資という分野では豪州にとって中国はそれほど重要ではないようにみえる。(図14)豪州に対する対内直接投資額上位国の推移01,6001,2001,4001,00080060040020020092010201120122013201420152016201720182019(億米ドル)(出典)IMFデータCoordinated Direct Investment Survey (CDIS)米国英国日本オランダカナダ中国4.5%(2019年)(2) FIRB(Foreign Investment Review Board,外国投資審査委員会)*14の対内投資承認しかし、豪州に対する外国の投資を審査するFIRBの豪州対内投資のデータを見ると、状況が一変する。このデータは、外国投資審査制度に基づき、豪州に対する投資のうち、外国人または外国機関によるFIRBの承認を必要とする投資*15についての承認額及び承認数を示すものである*16。当該データは、上記のIMFの算出する対内直接投資に含まれない土地等も、FIRBの承認を要する投資であれば広く承認額に含むという特徴がある。図15をみると、FIRB承認額では2016-2017年まで中国が1位を維持していたことが分かる。また、承認件数が他の主要国と比較して圧倒的に多いことも中国による投資の特徴である。IMF統計の対内直接投資額とFIRBによる直接投資承認額との間に見られる違いは、中国の投資承認額の内訳をみることで、理由が明らかになる。中国による投資の分野別承認額(図16)をみると、7割以上を「不動産」が占めてい(図13)豪州の石炭主要輸出先国の推移07080901006050403020102018年7月2018年9月2018年11月2019年1月2019年3月2019年5月2019年7月2019年9月2019年11月2020年1月2020年3月2020年5月2020年7月2020年9月2020年11月2021年1月2021年3月2021年5月2021年7月2021年9月2021年11月(億豪ドル)(出典)豪州外務貿易省2020年10月石炭輸入が非公式に停止台湾インド中国日本全体韓国ベトナム ファイナンス 2022 Mar.45豪州と中国の二国間関係SPOT

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