ファイナンス 2022年3月号 No.676
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(ア)大麦2020年5月、中国は豪州産の大麦に対して反ダンピング(不当廉売)関税措置を発動。これに対して、同年12月、豪州は大麦に対する中国の関税措置をWTOに提訴し、2021年5月にWTOにパネル(小委員会)が設置された。豪州産大麦の主要輸出先国の推移(図11)を見ると、これまで中国が大部分を占めてきたが、中国による反ダンピング関税措置の発動以降、中国に対する輸出は激減し、2020年12月以降、対中輸出は殆ど行われていないことが分かる。しかし、2021年以降、特にサウジアラビアの旺盛な需要に支えられ、豪州の大麦輸出額は中国の反ダンピング関税措置発動前の水準まで回復。また、これまでの中国一極集中から輸出先の多角化に成功していることも見て取れる。以上より、中国による大麦に対する豪州への関税制裁の影響は限定的といえる。(イ)ワイン(酒類)2020年11月、中国は豪州産ワインに対しても反ダンピング関税措置を発動。これに対して、2021年6月、豪州はワインに対する中国の関税措置をWTOに提訴し、同年10月にWTOにパネルが設置された。豪州産酒類の主要輸出先国の推移(図12)を見ると、輸出総額は中国に対する輸出額と連動していたことが分かる。中国による反ダンピング関税措置の発動以降、中国に対する豪州産酒類の輸出額は激減した。中国以外の国々に対する輸出額が徐々に伸びてきているものの、中国の抜けた穴を十分には埋められていない。以上より、中国によるワインに対する関税制裁が豪州の輸出額に一定程度の影響を与えているといえる。ただし、ワインを含む「飲料・アルコール及び食酢」が豪の対中輸出全体に占める割合はごく僅か(0.8%)である事実(図5)にも留意が必要だ。(ウ)石炭豪州産石炭の主要輸出先国の推移(図13)を見ると、2020年7月頃から既に中国による豪州石炭輸入が減少傾向にある。これは中国政府による石炭輸入引き締めが主な原因と考えられる。その後、豪中関係悪化により、同年10月に中国が石炭の輸入を非公式に停止したことで豪州の対中石炭輸出額がほぼ0となった。しかし、豪州は、世界的な石炭需要に支えられ、中国以外の輸出(図9)豪州のサービス輸出品目の内訳(2019年12月期)(出典)豪州統計局個人(教育関連)38.6その他商業13.6通信、コンピュータ、情報5.1金融4.3その他5.2輸送7.4ビジネス2.5個人(その他)23.2旅行64.3(図10)豪州の旅行サービス輸出先国の推移02001801401001601208060402020012002200320042005200620072008200920102011201220132014201520162017201820192020(億豪ドル)(年)(出典)豪州統計局中国インドニュージーランド英国米国(図11)豪州の大麦主要輸出先国の推移043.52.5321.510.5(億豪ドル)2018年7月2018年9月2018年11月2019年1月2019年3月2019年5月2019年7月2019年9月2019年11月2020年1月2020年3月2020年5月2020年7月2020年9月2020年11月2021年1月2021年3月2021年5月2021年7月2021年9月2021年11月(出典)豪州外務貿易省中国日本サウジアラビアクウェートベトナムタイアラブ首長国連邦全体2020年5月反ダンピング措置発動(図12)豪州の酒類主要輸出先国の推移2020年11月反ダンピング措置発動2018年7月2018年9月2018年11月2019年1月2019年3月2019年5月2019年7月2019年9月2019年11月2020年1月2020年3月2020年5月2020年7月2020年9月2020年11月2021年1月2021年3月2021年5月2021年7月2021年9月2021年11月(出典)豪州外務貿易省04.53.52.54321.510.5(億豪ドル)中国カナダ米国英国ニュージーランド香港シンガポール全体44 ファイナンス 2022 Mar.SPOT

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