ファイナンス 2022年3月号 No.676
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主張を事実上支持する発言をしていたサム・ダスチャリ豪上院議員(野党・労働党)が、中国人実業家の支援を受けていた事実が発覚。党内重役を辞任、最終的には議員を辞任する事態となった。また、中国人実業家が豪州の各政党に政治献金を行っていた疑いも取り沙汰された。さらに、同年には、豪州保安情報機構(ASIO)のルイス長官が中国を念頭に大学への外国政府による干渉を警告。一連の事件を受け、豪州政府は、外国政府又は外国企業に代わって政治的な活動を行う場合に、依頼者や活動内容等の情報の登録及び開示を義務づける「外国影響力透明化法」(Foreign Inuence Transparency Scheme Act 2018)等を導入した。中国政府は豪州政府の一連の対応を「中国を敵視する政策」とみなし、両国の関係は悪化。2018年、豪ビショップ外務大臣と会談した中国の王毅国務委員は、「豪州側が関係を正常化し健全な発展を実現したいのであれば色眼鏡を外す必要がある」と強調し、今回の関係悪化はあくまでも豪州側の問題であるとの姿勢を示した。8. モリソン(自由党)政権(2018年~現在)― 豪中関係の決定的な悪化モリソン政権においても、中国との関係は改善するどころか、さらに悪化。モリソン首相が2020年3月に新型コロナウイルスの発生源について独立調査を求めたことに大きく反発した中国は、豪州に対し様々な貿易制裁を発動。さらに、2021年5月に中国は、2014年から開催してきた「戦略的経済対話」に基づく全ての活動の無期限停止を発表。これに対し、豪州は、中国との対話を再開したい意向を示す一方、中国の威圧に屈しないという強気な姿勢を維持。2020年12月に外国関係法(Australia’s Foreign *8) 「豪、中国企業のダーウィン港賃借見直しへ 国防相が地元紙に発言 安保上の観点で利用制限も検討」(2021年5月3日、日経)(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM030GE0T00C21A5000000/)Relations(State and Territory Arrangements)Act 2020)を制定し、豪の州や準州、及び大学等が外国政府と取決めを締結する際の外務大臣への事前通知及び外務大臣からの承認取得を義務付けた。当法を根拠に、豪州のペイン外相は2021年4月、ビクトリア州が2018年に独自に中国と結んだ「一帯一路」構想参加協定を破棄。さらに、先述した豪州の準州ノーザンテリトリーが中国企業と2015年に独自に締結したダーウィン港の賃借契約についても、安全保障上の観点から利用制限を含めた見直しを検討している*8。また、豪州は、中国の人権問題に対しても懸念を示している。中国の「香港国家安全維持法」導入を受け、モリソン政権は豪州内に滞在する香港市民のビザの一律2025年までの延長、及び香港市民からの今後のビザ申請に対して永住権取得につながる期限5年のビザを発給する意向も示した。さらに、2021年5月末に開催された豪州とニュージーランドによる首脳会談では、香港の人々の権利と自由への制限や自治権の侵害、新疆ウイグル自治区の人権問題について重大な懸念を共同で表明し、国連等への自由なアクセスを認めるよう中国に要請した。2021年12月、中国政府が人権侵害等の複数の問題に対応していないとして、米国に続き2022年の北京五輪への外交ボイコットを表明。さらに中国に対峙するべく豪州は同盟国との多国間連携も強化。ラッド政権時に脱退したQUAD構想については2019年に日米豪印4か国外相会談が実現。2021年4月には初の首脳会談が開催され、「自由で開かれたインド太平洋」実現に向け、ワクチンやインフラ等様々な分野での4か国の連携強化を確認。また、米英と共同で安全保障の枠組み「AUKUS」も立上げ公表し、防衛面でも関係を強化。(参考)ターンブル政権時及びモリソン政権時における中国の安全保障上の懸念と豪州政府の対応中国の安全保障上の懸念豪州政府の対応ターンブル政権2015年、豪州の地方政府が中国企業とダーウィン港の賃貸契約を締結▲ 外国投資・不動産買収規制改正(2015年)→外国投資規制を整備▲ 重要インフラ保安法成立(2018年)→電力、港湾、水力、ガスの重要インフラに関する国家安全保障上のリスク管理2017年、中国寄りの発言を行った豪州上院議員が、中国人実業家の支援を受けていたことが発覚し、辞任▲ 外国影響力透明化法成立(2018年)→外国政府又は外国企業に代わって政治的な活動を行う際に各種情報の登録・開示を義務化モリソン政権2018年、ビクトリア州が中国と独自に「一帯一路」構想参加協定を締結▲ 外国関係法成立(2020年)→豪地方政府、大学等が外国政府と取決めを締結する際の外務大臣への事前通知及び外務大臣からの承認取得を義務化 ファイナンス 2022 Mar.41豪州と中国の二国間関係SPOT

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