ファイナンス 2022年3月号 No.676
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表する「世界ウイグル会議」の総裁である女性活動家、ラビア・カーディル氏の入国を豪州政府が許可したことを受け、中国は予定していた外務次官の豪州訪問を取り止めた。また、中国の国有企業である中国アルミ業公司(チャイナルコ)による英豪系資源大手リオ・ティント社を巡る買収闘争の後、リオ・ティント社の従業員がスパイ容疑で中国当局に拘束され、最大懲役14年の判決を受けたことも、この時期、豪中関係が冷え込む一因となった。5. ギラード(労働党)政権(2010-2013年)― 対中関係修復の動き豪州初の女性首相となったギラード氏は、ラッド政権時に悪化した豪中関係の修復を試みた。2011年の初訪中の際に、ギラード首相は中国の胡錦濤国家主席に対して「戦略的パートナーシップ」を提案。以降、2年にわたる熱心な働きかけの結果、ギラード首相は2013年4月の訪中時に習近平国家主席と「戦略的パートナーシップ設立」に合意し、豪中関係を大きく進展させることになった。この際、年次首脳会談や、豪州の財務大臣及び貿易・投資・観光大臣と中国の国家発展改革委員会主任による「戦略的経済対話」*5を新たに開催することで一致。また、両国は豪ドルと人民元の直接取引を行うための通貨協定にも署名した*6。他方、ギラード首相は中国に対して全ての分野において寛容であったわけではない。事実、ギラード首相は安全保障上の懸念から、国内のブロードバンド網計画への中国・ファーウェイの参入を排除している。6. アボット(自由党)政権(2013-2015年)― 豪中関係の繁栄アボット政権は、豪中経済関係の深化を実現。2014年に習近平国家主席が訪豪した際に、二国間関係のハイレベルかつ戦略的・包括的な性質を強調するために、豪中関係を「戦略的パートナーシップ」から「包括的・戦略的パートナーシップ」に格上げすることに同意した。また、この際に大筋合意された豪中FTAにつ*5) 「戦略的経済対話」は、2021年5月に中国側から無期限停止とされるまで、2014年に第1回、2015年に第2回、2017年に第3回が開催された。*6) 「Australia-China Strategic Partnership」(Rahul Mishra, Dr. Rahul Mishra is Research Assistant at the Institute for Defence Studies & Analyses(IDSA), New Delhi)*7) 2021年11月、同法の改正法である「2021年セキュリティ法改正(重要インフラ)(Security Legislation Amendment(Critical Infrastructure)Bill 2021)」が成立。従来の4部門(電力、港湾、水力、ガス)から、通信、金融サービス、ヘルスケア、教育、宇宙産業、防衛産業等を含む11部門に拡大。いても、国有企業を除く中国からの対豪投資について米国並みの審査基準に緩和することや農産物やサービス分野での中国市場の開放を含む形で2015年末に成立。さらに、同年12月に発足したAIIB(アジアインフラ投資銀行)についても、日本や米国等が加盟を見送る中、豪州は原加盟国として参加した。7. ターンブル(自由党)政権(2015-2018年)― 安全保障上の懸念の高まり親中派として知られるターンブル氏が首相に就任したことで、豪中はますます関係を深めるかと思われたが、豪州国内に徐々に広がり始めていた中国に対する安全保障上の懸念が一気に顕在化し、豪中間の緊張が高まることとなった。就任直後の2015年10月、豪州の準州ノーザンテリトリーが中国企業とダーウィン港の商業用港湾施設についての賃貸契約を締結した。ダーウィン港は米海兵隊の駐留拠点に程近い安全保障上非常に重要な港湾であり、当時、米国オバマ大統領はターンブル豪首相に対して明確に不満を表明。同事案以降、対内投資に対する規制がさらに強化されることとなった。2015年の外国投資・不動産買収規制(Foreign Acquisitions and Takeovers Act 1975)改正により、外国投資審査制度が整備された。豪州政府は、同制度に基づき、中国企業による農地買収や電力公社の買収を「国益に反する」として阻止。また、上記のダーウィン港に関する契約が外国投資審査制度の対象外であった反省点を踏まえ、外国投資・不動産買収規制の審査対象に、州政府機関が当事者となる契約も含めることとした。さらに、2018年には「重要インフラ保安法」(Security of Critical Infrastructure Act 2018)が成立。電力、港湾、水力、ガスの重要インフラに関する国家安全保障上のリスク管理を目的とし、当該重要インフラの所有権や運用状況の透明性向上及び政府と重要インフラ運営者との間の協力促進を図った*7。中国の脅威は経済分野を超え、政治や教育分野にも及んだ。2017年、中国政府による南シナ海の領有権40 ファイナンス 2022 Mar.SPOT

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