ファイナンス 2022年3月号 No.676
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1はじめに昨今の国際社会において、中国の存在感は年々大きくなっている。気候変動や途上国の債務問題など様々な国際課題はいずれも中国を抜きにして解決は困難だ。異なる政治体制・価値観を持つ中国のような大国を、国際課題解決に向けて建設的に関与させるとともに、国際秩序の中で責任ある行動を取るよう促すには、日本と共通の価値観を持つ国々との連携をより密にしていく必要がある。その際、これらの国々の対中政策とその背景にある政治・経済関係や世論の動向等を把握することは非常に重要となる。こうした問題意識をもって、今事務年度の国際調整国際局地域協力課国際調整室調整第一係 吉田 有希豪州と中国の二国間関係~豪中対立の行方~政治面での豪中関係の歴史的推移(38~42ページ)1972年のウィットラム首相による国交樹立以降、豪中関係は、中国の人権問題等により政治的緊張が走ることもあったが、経済面では順調に推移してきた。2013年の豪中間での戦略的パートナーシップ締結、2014年の包括的・戦略的パートナーシップへの格上げ、2015年の豪中FTA成立等により、揺るぎない経済関係を構築したかにみえた。しかし、2017年頃から中国による対内投資や内政干渉により、豪州内で中国に対する経済安全保障・政治上の懸念が高まっていく。そして、2020年、新型コロナウイルスの発生源について豪州が独立した調査を求めたこと、これに反発した中国が豪州品への貿易制裁を課したこと等により、豪中関係は決定的に悪化した。豪中の経済関係(42~46ページ)豪州は財の輸出入の両面において、中国に大きく依存している一方、中国も豪州の鉄鉱石や石炭等に大きく依存している。しかし、上記の依存状態にもかかわらず、中国による貿易制裁を受けた豪州の各品目は、一部品目を除き代替先の確保に成功しており、貿易制裁の豪州経済への影響は今のところ限定的である。また、豪州にとって中国は、サービス(旅行、特に留学)の輸出先としての重要性も高まっており、対中旅行サービス輸出額は、2019年には二位のインドの2倍以上にまで拡大した。中国による豪州への直接投資額は相対的に大きくはない(国別6位)ものの、不動産に投資が集中(約7割)しているのが特徴的である。これに対し、豪州は安全保障の観点から、近年、外国投資規制を相次いで強化している。豪州国民の対中認識(世論)(46~48ページ)豪州国民の対中認識は近年大幅に悪化し、2021年には「安全保障上の脅威」との認識が「経済上のパートナー」との認識を上回るに至った。2016年と2021年の世論調査を比較すると、「中国の軍事行動」より「中国の経済成長」の項目において認識の悪化が顕著であり、このことから中国の軍事面より中国の経済面が豪州国民の認識の変化に影響を与えたと考えられる。今後の豪中関係の展望(48~49ページ)豪中関係は貿易、投資、政治、及び国内世論のいずれの面を見ても悪化の一途をたどっている。この傾向は今後も続くのだろうか。豪州の対中輸出上最も重要な鉄鉱石は、中国の政策転換により中長期的に減退が見込まれており、中国人留学生がパンデミック収束後も以前と同等の規模で豪州に戻ってくるかも不透明である。上記の要素が豪州の態度に今後どのように影響するか注視する必要がある。また、豪州国民は概ね現政権の対中強硬政策を支持しており、現在の中国に対する対抗姿勢に一定程度超党派での合意があることを踏まえると、現在の対中姿勢は今後も維持されると考える。たとえ、今年5月までに実施される予定の豪州連邦総選挙により政権交代が生じたとしても、これまで党派ごとに対中政策の一貫した方針が見受けられないことを踏まえると、やはり豪州の対中方針が直ちに変更するとは考えがたい。〈エグゼクティブサマリー〉38 ファイナンス 2022 Mar.SPOT

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