ファイナンス 2022年3月号 No.676
40/102

4.2 SOFRとFFレートの関係上記の観点から米国では無担保コール・レートであるFFレートではなく、レポ・レートに立脚するSOFRがRFRとして採用されました。とはいえ、レポ・レートとFFレートは原則高い相関をしている点には留意が必要です。図表10がSOFRとFFレートの推移ですが、一定の乖離があるものの、その動きのトレンドは同じであることがわかります(SOFRは有担保金利であるため、基本的にSOFRの方がFFレートより低い値をとっています)。SOFRの場合、よりギザギザした動きをしており、これは債券の需給等の要因ですが、SOFR/FFの乖離(いわゆるSOFR/FFベーシス)は基本的には安定的な動きをしていることがわかります。ちなみに、上記を考えると、米国の金融政策についてもFFレートでなく、レポ・レートに立脚するという議論もあります*33。もっとも、FRBの政策金利はあくまでFFレートですから、利上げ確率の算出などFRBの利上げの分析においてはFFレートが用いられています(利上げ確率の算出方法等については今後の論文で取り上げる予定です)。なお、我が国の場合、家計が有する資産の半分以上が預金に集中するなど、銀行主体の金融システムを有していることから、MMF(Money Management Fund)*34などのプレゼンスは低く、(FF市場に相当する)無担保コール市場に厚みがあると言えます。その意味で、我が国では、我が国の有する市場構造に考慮した金利指標がRFRとして選ばれているとみることもできます。*33) 例えば、ニューヨーク連銀で金融市場部門の責任者を務めたブライアン・サック氏は政策金利をレポ・レートに変更することを提案しています。詳細は「米政策金利、レポ金利に変更を 市場急変で改革必要=元FRB高官」(ロイター、2019/9/26)などを参照してください。*34) 米国のMMFは、日本では「マネー・マネジメント・ファンド」と呼ばれ、日本版MMFと呼ばれることもあります。日本でマネー・マーケット・ファンドといった場合、外貨建てMMF(マネー・マーケット・ファンド)を指します。5おわりに本稿では米国のRFRであるSOFRについて説明しました。今回は紙面の関係で取り上げられませんでしたが、米国の短期金融市場においてMMFの存在も重要です。次回は米国のMMFについて取り上げることを予定しています。参考文献[1]. 岡田功太(2018)「金融危機発生から10年間で再拡大する米連邦住宅貸付銀行制度」『野村資本市場クォータリー』2018 Summer[2]. 富安弘毅(2014)「カウンターパーティーリスクマネジメント(第2版)」きんざい[3]. 服部孝洋(2020)「日本国債先物入門―ファイナン日本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」『ファイナンス』1月号、70–80.[4]. 服部孝洋(2021a)「金利指標改革入門―店頭(OTC)市場とLIBOR不正操作問題について―」『ファイナンス』11月号、10–19.[5]. 服部孝洋(2021b)「リスク・フリー・レート(RFR)入門-TONA,TORF,OISを中心に-」『ファイナンス』12月号、14–24.[6]. 宮内惇至(2015)「金融危機とバーゼル規制の経済学」勁草書房[7]. ジェームズ・オーウェン(2002)「ヘッジファンド投資入門」ダイヤモンド社[8]. ブルース・タックマン(2012)「債券分析の理論と実践(改訂版)」東洋経済新報社[9]. ダレル・ダフィー(2011)「巨大銀行はなぜ破綻したのか―プロセスとその対策」エヌティティ出版[10]. ベン・バーナンキ(2015)「危機と決断 前FRB議長ベン・バーナンキ回顧録」角川書店[11]. Alternative Reference Rates Committee(2016)「Interim Report and Consultation」[12]. Alternative Reference Rates Committee(2018)「Second Report」[13]. Alternative Reference Rates Committee(2021)「An Updated User’s Guide to SOFR」[14]. CME Group Benchmark Administration Limited(2021)「CME Term SOFR Reference Rates Benchmark Methodology」[15]. McGowan, J., Nosal, E(2020)「How Did the Fed Funds Market Change When Excess Reserves Were Abundant?」Economic Policy Review 26(1)図表10 SOFRとFFレートの推移01.510.514/114/715/115/716/116/717/117/7(%)SOFRFFレート(注)ここではARRC(2018)を参照して2014年から2017年の動きを見せています。(出所)Bloomberg36 ファイナンス 2022 Mar.SPOT

元のページ  ../index.html#40

このブックを見る