ファイナンス 2022年3月号 No.676
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に3か月間借入れをするレポ市場に流動性があれば、実際の取引に立脚した3か月のターム物SOFRを構築できます。しかし、米国においてもターム物のレポ市場については流動性が低いため、ターム物金利のSOFRについてニューヨーク連銀は算出していません*10。後決め複利についてはSOFRの値を使って算出することができます。後決め複利の計算のイメージは服部(2021b)で説明しましたが、同論文では、OIS(Overnight Index Swap)に基づき、前決めのターム物金利を算出するというアイデアも紹介しました。SOFRについても、CMEグループがSOFR先物およびOISに基づき、前決めのターム物金利を算出しています*11。もっとも、本稿では紙面の関係上、SOFR先物について触れていないため、その構築方法に関心がある読者はCME(2021)などを参照してください。また、SOFRのガイドを示した「An Updated User’s Guide to SOFR」(ARRC, 2021)に後決めなどの計算方法に加え、利払に関する商慣行(コンベンション)等についても細かく記載しているため、必要に応じて同レポートを参照してください。3米国レポ市場の詳細とSOFR3.1 代替参照金利委員会(ARRC)とはここまでがSOFRの概要ですが、ここからなぜ米国ではレポに立脚してRFRを特定したかをもう少し詳*10) ARRC(2021)では「While the overnight Treasury repo market underlying SOFR is extraordinarily deep, term repo markets are much thinner, and it would not be possible to build a robust, IOSCO-compliant rate directly off the term Treasury repo market. As discussed in the ARRC’s Second Report, there is really no term cash market in the United States with enough depth to build a reliable, robust, transactions-based rate produced on a daily basis that would be able to meet the criteria that the ARRC set in choosing SOFR」と説明しています。*11) 詳細は下記を参照してください。 https://www.cmegroup.com/market-data/cme-group-benchmark-administration/term-sofr.html*12) レポの説明をする際、典型的には、証券会社やそこでマーケットを担うトレーダー(ディーラー)を中心に説明がなされます。細に考えていきます。まず、米国のRFRを考えるうえで重要な存在が代替参照金利委員会(Alternative Reference Rates Committee, ARRC)です。ARRCとは、連邦準備理事会(FRB)とニューヨーク連銀が事務局となり、米ドルLIBORの代替金利を考えるうえで2014年に立ち上げられた委員会です。ARRCの会長はモルガン・スタンレー証券が務め、米国の主要銀行や海外の金融機関などが参加するなど、実際にLIBORの代替金利に深く関わる実務家により構成されています。ARRCはセミナーを実施したり、各種レポートを出すなど、LIBORからの移行について国際的にみてイニシアティブをとっている存在といえます。ARRCは、服部(2021a)で議論した証券監督者国際機構(International Organization of Securities Commissions, IOSCO)の原則に基づく指標の選定を行うこととしています。ARRCはIOSCOの原則を満たすRFRを構築するうえで、前述のレポ・レートに基づくSOFRだけでなく、後述するFFレートなど複数の指標を検討したうえで、SOFRをLIBORに代わるRFRとして特定しました。図表3には各国で採用されたRFRの概要を示していますが、どこの国でも中央銀行が事務局となっていることがわかります。円金利については日本銀行が「日本円金利指標に関する検討委員会」の事務局となっており、三菱UFJ銀行が議長を務めています。3.2 レポとリバース・レポここからは、ドルLIBORの代替金利について、多数の選択肢がある中、なぜレポに立脚した金利がRFRとして採用されたかを考えるため、米国のレポ市場についてもう少し丁寧に説明していきます。前述に続き、読者が証券会社のトレーダーであることを想定した事例を用いて考えていきます*12。前述のとおり、読者がトレーダーである場合、顧客の売買に応えるためには、一定程度国債を在庫として保有する必要があります。もっとも、国債を購入する図表2  SOFRの推移0654321201620172018201920202021(%)(注)ニューヨーク連銀は2018年以降のSOFRについて算出していますが、ここではBloombergの算出値を使っています。(出所)BloombergSOFRSOFR(3か月平均)LIBOR(3か月)30 ファイナンス 2022 Mar.SPOT

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