ファイナンス 2022年3月号 No.676
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1はじめに*1これまで「金利指標改革入門」(服部, 2021a)や「リスク・フリー・レート入門」(服部, 2021b)でLIBOR改革や我が国で採用されたLIBORの代替金利について説明してきました。本稿では、米国で採用されたLIBORの代替となる金利指標である担保付翌日物調達金利(Secured Overnight Financing Rate, SOFR)に焦点をあてます。SOFR(「ソーファー」あるいは「ソフラ」と読みます)の最大の特徴はレポに基づく金利である点です。その意味で、SOFRを理解するためには米国のレポ市場を理解する必要があるともいえます。もっとも、米国のレポ市場は複雑であり理解が困難であるとされています。そこで、本稿ではまずはSOFRの概要を説明した後、米国のレポ市場について丁寧に説明します。なお、筆者がこれまで執筆してきた一連の債券入門シリーズについては金利指標改革などを含め、筆者のウェブサイトにまとめて掲載してありますので、そちらもご参照いただければと思います*2。2SOFRとは2.1 レポ取引とは何かLIBORの不正操作問題以降、LIBORに代わるリスク・フリー・レート(Risk Free Rate, RFR)が模索されてきましたが、米国で使用されるRFRの特徴は、日本とは異なり、レポ市場に立脚した金利である点です。SOFRはSecured Overnight Financing Rateの頭文字をとったものですが、Securedは有担保を意味しており、担保付のオーバーナイト金利を意味します。こ*1) 本稿の作成にあたって、宍戸知暁氏、富安弘毅等、様々な方に有益な助言や示唆をいただきました。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。本稿につき、コメントをくださった多くの方々に感謝申し上げます。*2) 下記をご参照ください。 https://sites.google.com/site/hattori0819/*3) レポ・レートを年限ごとにプロットすれば長い年限であるほどレートが低いことが一般的であるなど、国債のカーブとは異なる性質がある点にも注意が必要です。のようにSOFRはレポに立脚したRFRですが、冒頭で説明したとおり、レポ取引は初学者にとってわかりにくいといえます。レポ市場については筆者が執筆した「日本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について」(服部, 2020)で比較的丁寧に説明しましたが、ここでは再び例を用いてレポ取引について考えていきます。例えば、読者が証券会社のトレーダーであるとしましょう。この場合、OTC市場でマーケット・メイクをするうえで国債を在庫として持つ必要がありますが、国債を購入するためには、その購入資金を調達する必要があります(OTCのイメージは服部(2021a)で説明しており、そちらを参照してください)。もっとも、購入した国債は担保として使えますから、国債を担保に資金調達をすることができます。重要な点は、国債という安全性の高い担保を差し出すわけですから低金利で資金調達することができる点です。これは読者が住宅を買う場合、自分が購入する不動産を担保に入れることによって相対的に低利子で資金調達ができることと同じ原理です。SOFRとは有担保取引の中でも、特に米国債を担保にした際に、オーバーナイトで借りる場合の金利(レポ・レート)から算出されます(レポ・レートとはレポを行う際の金利、すなわち、国債などを担保にした場合の調達コストです)。国債を担保にした場合、仮に貸し手がデフォルトしたとしても、国債を保有することができますから、国債が安全資産であることを考えると、安全性の高い金利*3と解釈することができます。SOFRの重要な点は、実際の取引に立脚した指標で東京大学 公共政策大学院 服部 孝洋*1SOFR(担保付翌日物調達金利)入門-米国のリスク・フリー・レートおよび米国レポ市場について-28 ファイナンス 2022 Mar.SPOT

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