ファイナンス 2022年2月号 No.675
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PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 4なか難しいので、財務総研のFRというのは、貴重な存在であり、今後も続けるべきだと私は思います。7.さいごに内藤:今回の特集号を通じて明らかになった今後取り組むべき課題はありますでしょうか。小枝:私は、今後も、国債の金利の問題に、幅広い観点から多くの研究者が取り組むことの重要性が明らかになったと思っています。今まで財政の人は財政に特化して、金融の人は金融に特化してというような状況があり、さらに、用いられている理論モデルや実証のためのモデルも異なっているといったこともあって、財政政策と金融政策は独立して論じられてきたことが多かったと思います。しかし、近年はそういった議論だけでは足りない状況になってきたと思います。特にコロナによるショックが重要なきっかけになっていると思いますが、日本だけではなく先進国で財政支出が大幅に増えていて、それが国債の発行によって賄われているわけです。この債務の増加については世界的にも様々な議論が起こっています。マクロ政策というと、中長期的な観点からの構造政策も重要ですが、やはり財政金融政策が大きな柱です。これまでは、それぞれの政策のインタラクションをあまり気にしなくてよかったのですが、国債の発行と市場の金利は密接に結びついているものですので、最近は相互作用を気にしないといけなくなっています。例えば、国債管理政策を考えるときにも、低金利下では変動利付債を出しにくいといった様々な制約が発生してくるため、プロダクト(金融商品)の多様化という意味では、非常に難しい局面に立たされます。また、財政が健全化しないで、国債の発行量も発行残高も非常に大きいという状況の下では、金利が上がると財政赤字がさらに拡大し、貨幣量や国債発行額がさらに増加するという悪循環が生じる世界になってしまうわけです。そうすると、いざ大きな物価上昇や、変動相場制の下での行き過ぎた通貨安という状況が生じた際に、機動的に金融政策をとることが制約されるという可能性があるので、私はとても心配しています。実際に、大きなインフレが生じたときにどうするか。税を上げればいいじゃないかということを指摘する人もいるわけですが、そうしたことは機動的にできないわけです。だからこそ金融政策という機動的なツールで対処をすることができるようにしておく必要があるわけですが、そういう機動的な政策ツールが制約された状態になると、これは次世代にとって選択肢の幅を狭めることになります。将来、金利を上げなければならない状況というのは、いろいろと考えられますけれど、国債の残高が非常に大きい状況の下では、簡単には上げられないことも起こりえます。長期的に持続可能な財政運営が保てないと、金融政策による機動的な対応が難しいという制約が生じる可能性があり、将来世代に迷惑がかかるということを無視してはならないと思っています。内藤:フィナンシャル・レビューの特集をまとめたご経験から、何か伝えたいこと等があれば教えてください。小枝:やはり、せっかくまとめられたものですので、より多くの人に読んでいただきたいと思いますが、アウトリーチには苦労しています。今回の特集号は、例えば政治的な意思決定に影響を与えるような方々に直接読んでもらうことは難しいだろうと思います。特集号でとりあげたテーマや議論について、より幅広く知ってもらうことが重要だと思っています。たとえば、MMT(Modern Monetary Theory)のように、インフレーションが生じるまでは国債発行額を増やしても大丈夫だといった議論が、日本では大きな話題になりましたが、極端な議論がされているという印象を受けています。今回のFRでは、政府の債務残高や、国債の流通市場における金利の決まり方についての議論をとりあげるなど、地道な努力はしているのですが、なかなかアウトリーチは難しいと感じているところです。引き続き、財務総研には、様々な議論の場を提供していただけることを期待したいと思っています。 ファイナンス 2022 Feb.83連載PRI Open Campus

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