PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 4なる恐れがあります。今回の論文では、減衰ファクターを固定せずに毎期推計するという方法が採用されています。これにより、イールドカーブをより高い精度で推計しています。このような取り組みを続けていくことは、金利動向への理解を深めるうえでも有意義なことです。5.国債流通市場の分析内藤:今回は、国債の流通市場にまつわる分析が多く掲載されている印象があります。先ほどの関根論文もそうでしたが、宇野・戸辺論文*8と小枝論文*9も市場分析だと思います。この2つについて教えてください。小枝:まず、国債の流通市場をなぜ取り上げたかですが、日本の国債の毎年の借換えの規模は100兆円を超える状態が続いています。そのため、毎年の借換えを安定的に行う観点から、流通市場の動きを分析することは重要だと考えています。そこで、今回の特集では流通市場に関する分析を含めました。具体的には、先ほど紹介した関根論文が扱ったイールドカーブ分析のほかに、宇野淳先生と戸辺玲子先生が扱った流動性についての論文と、私が扱った国債の満期構成についての論文があります。宇野・戸辺論文では、国債市場のマイクロストラクチャー*10について、例えば市場の流動性をどのように計測するか等、最近の研究の潮流について紹介していただきました。その中では、欧州のケースについて、国債についての信用リスクが高まることによって流動性が枯渇する、つまり、国債の増加によって債務の持続可能性に懸念が生じることの結果として、金融市場が機能しなくなるという事態が生じたことを示した点が、とても興味深いところだと思います。日本においても、そういったことが生じるリスクを考える必要があると思います。*8) 「国債市場の流動性と金融政策:最近の研究潮流」を共著で執筆(https://www.mof.go.jp/pri/publication/financial_review/fr_list8/r146/r146_06.pdf)。*9) 「年限構成からみる国債管理政策」を執筆(https://www.mof.go.jp/pri/publication/nancial_review/fr_list8/r146/r146_08.pdf)。関連論文として次のものがある。Koeda, Junko and Kimura, Yosuke, Government Debt Maturity and the Term Structure in Japan(January 22, 2022). Available at SSRN:https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=4015576*10) マーケットマイクロストラクチャーとは、市場においてどのように取引が行われるかの詳細に関する研究を行う金融経済学の分野の一つ。*11) 「国の債務管理の在り方に関する懇談会」は、財務省理財局が、中長期的な視点から、国債管理政策を中心とする国の債務管理について、民間の方々等から意見や助言を得るために平成16(2004)年から令和3(2021)年までの間、開催したもの。*12) Vayanos, Dimitri and Vila, Jean-Luc,(2021)“A Preferred‐Habitat Model of the Term Structure of Interest Rates,” Econometrica, Econometric Society, vol. 89(1), pages 77-112, January内藤:小枝先生は、理財局の主催する「国の債務管理の在り方に関する懇談会」*11のメンバーを務めておられたこともありました。今回、小枝先生は、債務管理政策の重要な要素である、国債の満期構成について執筆されています。小枝:ご承知のとおり、国債管理政策では、予算編成によってこれだけの財政赤字になりそうだというのが分かると、では、どの(満期)年限の国債をどのぐらい発行するかというのを12月に予算と一緒に細かく公表します。この年限の構成比を決めていくのが国債管理政策の重要な要素です。これまで、国債の年限構成を細かく考えることには、経済学的な観点からは意味がないのではないかという、実務家の目からすると的外れな議論が、アカデミックの世界では蔓延していました。一方で、実務家の方にとっては、需給関係はとても大事だから、満期年限の構成が重要であるのは当然だとされていました。この問題について、真正面から答えるモデルを構築した論文*12が海外の研究者によって書かれ、昨年、経済学のトップジャーナルに掲載されました。それによって、国債の年限構成が金利に影響を与えるという、これまで実務家が言ってきたことが、整合的なモデルとして示されました。私としては、そのモデルに大きな納得感があり、今回の私の論文では、このモデルを活用して、日本の国債の金利について、銘柄ベースの情報を丁寧に積み上げたデータベースを使用して、金利の期間構造(短期から長期までのそれぞれの金利の水準)について推計を行ったのが新しいところです。国債の年限構成は、政治的な関心をひくテーマではないでしょうけれども、大事な話だと考えています。これまで、財務省の皆さん、特に理財局の方が汗をかくことによって、財政赤字に対して、では何年のものをどれだけ発行するかということを実務のレベルで精 ファイナンス 2022 Feb.81連載PRI Open Campus
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