ファイナンス 2022年2月号 No.675
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PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 4外れ値(outlier)となっています。日本のこのような状況については、長く続く中で取り立てて議論をされる機会が少なくなってきていますが、これは、次世代のことを考えても放っておくことのできない大事な問題だと考えています。リーマンショックや自然災害、さらには現下のコロナショックなど、危機対応の重要性が近年増している中で、対応に必要な資金調達は、国債増発に頼らざるを得ない状況にある一方で、低金利・低インフレ環境が続いていることもあって、債務を増加し放題になっているのが現状です。日本国債は日本人が持っているから大丈夫なのだと巷では言われていますが、例えば直近の国庫短期証券の保有者の半分は海外であるように、近年日本国債の海外保有者割合は増加傾向にありますので、投資家の動向は無視できません。令和に入り、国の債務や債務管理に関する現在と将来の課題を明らかにするのは急務だと考えて、本特集号に取り掛かるに至ったという次第です。内藤:今回の特集号で特に意識された観点はどのようなものですか?小枝:フィナンシャル・レビューというのは、学術誌ですので、日ごろ政策当局者や政治家の方が必ずしも取り上げているわけではないような切り口から議論を行うことを心掛けるようにしました。また、経済学の世界では英語で論文を投稿するのが一般的なため、日本語で最先端の議論を正確に把握するのがとても難しくなっています。日本で紹介されている議論の中には、様々なものを都合よくかいつまんでいった結果、「えっ!?」と驚くほど理論的な整合性を欠いたものがあります。そのような中で、フィナンシャル・レビューというのは、日本語で出される学術誌です。私は、そのような場はとても大事だと思っており、そこで、日本語でもしっかりと国際的に通用力のある議論を紹介しないといけないなという意識をもっていました。*2) 「政府債務とマクロ経済―異質な家計モデルによる分析の紹介―」を執筆(https://www.mof.go.jp/pri/publication/financial_review/fr_list8/r146/r146_03.pdf)。*3) 「不完備市場および世代重複構造のある経済における最適債務」を執筆(https://www.mof.go.jp/pri/publication/nancial_review/fr_list8/r146/r146_02.pdf)。2.日ごろ目にしない切り口とは内藤:先ほど小枝先生のお話の中で「日ごろ政策当局者や政治家の方が必ずしも取り上げているわけではないような切り口」という言葉がありましたが、具体的にはどのような切り口から今回は取り上げられたのでしょうか。小枝:例えば、債務の持続性について、持続可能か否かという点にとどまらず、その規模を議論するという文脈がその一つです。政策当局者や政治家の方は、国の債務水準というときに、その債務を持続させることができるかという切り口で議論をすることが多いと思います。しかしながら、債務の水準というのは、国の規模に照らして最適な(optimal)水準かどうかという切り口での議論も存在します。つまり、持続可能かもしれないけれども、国債が積み上がり過ぎてしまっているという状態かどうかを議論するということが考えられるわけです。今回は、どのような理論枠組みの下で、最適なレベルというものを整合的に考えることができるのかを紹介するとともに、どういう要因によってこの最適な水準が変動するのかといったことを議論してもらいたいと考えて、髙橋修平先生*2や猪野明生先生・小林慶一郎先生*3にそのようなテーマを取り扱っていただきました。髙橋論文では、最適な債務水準は、貯蓄インセンティブがどの程度あるかによって変わるのだと述べられていることが特徴的で、例えば、将来に向けた不確実性が大きく、人々が不安を抱いているという経済では貯蓄インセンティブが大きいので、それだけ国債の需要が大きくなるという話です。また、猪野・小林論文では、将来世代を考慮するかどうかにより結論が変わるかどうかを取り上げています。 ファイナンス 2022 Feb.79連載PRI Open Campus

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