しても、その人の名誉は傷付かないという適応性が保証される風土に変わります。こういうことを心がけていかないと、適応性は形成されません。これからは様々なシステムの擾乱が起こってくる時代ですから、私たちはこうしたレジリエンスを考えていかなければなりません。14. これから求められる リーダーシップ最後にハラスメント的な古いタイプの指導者とこれから求められるリーダーシップについて考えていきたいと思います。東日本大震災の後、当時の復興担当大臣は被災地を訪問した際の発言が批判され、就任してわずか9日目に辞任しました。これに対して神戸女学院大学の内田樹先生が大変優れたコメントをされているので、抜粋してご紹介します。内田先生はこう述べられています。「彼は、復興事業は地方自治体の自助努力が必要で、それを怠ってはならないということを述べ、しかる後に来客を迎えるときの一般的儀礼について述べました。仮に日本語を解さない人々がテロップに訳文だけ出た画面を見たら、どうしてこの発言で大臣が辞任しなければならないのか、よく分からないと思ったでしょう。傲慢さが尋常でなかったから、その点気付いたかもしれないが、態度が大きいということは、別に政治家が公務を辞職しなければならないような重大な事由ではない。だから、問題は発言のコンテンツにはない。自分の言葉を差し出すときに、相手にそれを本当に聞き届けて欲しいと思ったら、私たちはそれにふさわしい言葉を選ぶ。話が複雑で込み入ったものであり、相手がそれを理解する集中力が必要である場合に、私たちはどうやって、相手の知性のパフォーマンスを高めるかを配慮する。怒鳴りつけられたり、恫喝を加えられたりされると、知性の活動が好調になるという人間は存在しない。彼はいったい何を得ようとしたのであろうか。それは「相対的な優位」である。「大臣と知事のどちらがボスか」ということを思い知らせることであった。動物の世界における「マウンティング」である。」リーダーはどうあるべきでしょうか。リーダーはそれぞれの個性というものをきちんと見極めて、その人の能力を最大限に発揮できるように適材適所に当てはめて、Optimizeしていくという発想が重要です。命令一言で動く組織のほうがやりやすいのですが、これがダイバーシティの時代に求められるマネジメントです。どうやって部下に理解させるのか、そして自分にはない才能をいかに引き出して、Optimizeして、組織としてのアウトプットを最大化するのか、それを考えるのがリーダーです。ハラスメント、マイクロマネジメントに陥ってはならないと言いましたが、ハラスメント論はリーダーシップ論の裏面です。リーダーシップがないからこそ、ハラスメントのように強要する手法しかないのです。リーダーシップがあれば、「この人の下で働こう」と喜んで言うことを聞きますのでハラスメントなど起こりえません。ぜひ皆さんもハラスメントはリーダーシップの裏面だということを理解して、組織のレジリエンスを獲得するために、「冗長性」「多様性」「適応性」を常に念頭に置いて組織のマネジメントをしていただきたいと思います。講師略歴松崎 一葉(まつざき いちよう)筑波大学大学院医学医療系 産業精神医学・宇宙医学研究グループ 教授筑波大学医学専門学群卒業、筑波大学大学院医学研究科博士課程環境生態系専攻修了(医学博士)。筑波大学助教授などを経て、2007年に同大学大学院人間総合科学研究科(組織名称変更により医学医療系)教授に就任。専門は産業精神医学・宇宙航空精神医学。WPI(世界トップレベル研究拠点形成プログラム)所属、IIIS(国際統合睡眠医科学研究機構)PI(主任研究員)、科学研究費新学術領域「宇宙に生きる」研究代表。官公庁や民間企業の健康管理医・産業医のほか、宇宙飛行士健康診査専門委員会委員も務めている。『もし部下がうつになったら』(株式会社ディスカヴァー21 2007)、『会社で心を病むということ』(新潮文庫 2010)、『情けの力』(幻冬舎 2011)、『クラッシャー上司』(PHP新書 2017)など著書多数。 ファイナンス 2022 Feb.77上級管理セミナー連載セミナー
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