された行動のことです。アスペルガー症候群にはこうした特徴がありますので、それを理解したうえで適材適所に配置しなければいけません。これも多様性、ダイバーシティです。一つの考え方で一つの仕事を同じ手法で進めていくやり方はアスペルガー症候群の人には不適で、こうした人たちをどうやってうまく適応させて活用していくかという発想が大切です。大変に優秀だけれど、偏った考え方で、なおかつコミュニケーションが非常に苦手、そういう人材に統一した仕事のやり方を押し付けても弾かれてしまいます。どうやって彼らを活用しようかという発想で考えていかなければいけません。問題になりやすい発達障害の3分類として「尊大型」「孤立型」「積極奇異型」があります。「尊大型」の例では、Apple社の創業者スティーブ・ジョブスがいます。彼は卓越したセンスを持っていましたが、自己主張が強く強圧的な態度で周囲を圧倒し、気に入らない社員はどんどん解雇するため「スティーブされる(解雇される)」という隠語があったほどでした。1980年代に彼はApple社を混乱させたとして創業者にもかかわらず解任されました。ところが同社は業績が落ち込み、スティーブ・ジョブスはiMacを引っ提げて帰ってきます。そして同社はV字回復を遂げ、今や世界に冠たる一流企業になっています。大変偏った考えをもつ嫌な奴でコミュニケーションもできない彼を、同社の経営陣が使いこなしたからこそイノベーションを起こすことができたのです。次は「孤立型」の例です。人と関わろうとせず、人に関わられることを避ける、だけど大変優秀で、一つのことに対する専門性がとても高い。「積極奇異型」の例としては、英国BBCが2010年に制作したテレビドラマ「SHERLOCK」のシャーロック・ホームズが該当します。驚異的な記憶力や稀有で突飛な発想で事件を次々に解決していきますが、もともとシャーロック・ホームズは発達障害で、このドラマは、シャーロック・ホームズの発達障害の部分を非常にわかりやすく作っています。ワトソンとはじめて会ったときに会話もしないで同居をはじめたり、非常識な行動を頻繁に行ったりしますが、シャーロックは嫌な奴ではありません。配慮に欠けているだけなのです。シャーロックは自らを「高機能社会不適合者」と自虐的に述べています。高機能のアスペルガーというのは大体この3つ、「尊大型」「孤立型」「積極奇異型」です。こうした人たちをこれから先、組織の中でうまく適応させて活用していくことがこれからの時代に求められます。ADHD、注意欠陥多動性障害の症状は2つあります。1つ目は「落ち着きがない」です。単純なミス、忘れる、悪気なく決裁書類をため込む、といったものです。2つ目の症状は「目の前の興味に目がくらむ」ことです。キラッとしたことがあると、それしか見えなくなる、貯金できない、衝動買いです。家には使いかけの同じようなものがあるにもかかわらず、ついついスーパーで新しいものを買ってしまいます。11. 現有の限られた人的リソースを使い尽くすADHDやアスペルガー症候群の特性を十分に把握した上で、Apple社がスティーブ・ジョブズを活用したように、現有の限られた人的リソースを活用する発想が大切です。つまり、過重労働でその人の持っている力を消耗させるのではなく、様々な特性をダイバーシティの観点からうまくまとめて最適化していく発想です。人事院公務員研修所から「行政官として」というシリーズが出ていますが、これに阿曽沼厚生労働事務次官(当時)の講義録が掲載されています。阿曽沼さんが池田高校の練習を見に行ったところ、バッティング練習ばかりで全く守備練習をしていないので、当時の蔦監督に、守備練習をしなくていいのかと聞いたら、「今年はええんや」と答えたそうです。守備の下手な生徒もいるし、多少点を取られてもいい。それを補って、このチームは打って勝ち抜いていく、そのようにチームコンセプトを決めたというのです。今年の子は体格が良くて打つのが大好きで、守備がやりたくないから、守備練習をせんでいい。その分点取れ、と。あくまでも、その時、その時のグループでどうすればよいのか最善の組み合わせを考えるのが監督であると蔦監督がおっしゃったそうです。永遠に同一のチームというのがないのは役所も同じです。組織としては継続していますが、メンバーはぐるぐるとかわります。そして、その日与えられた状態 ファイナンス 2022 Feb.75上級管理セミナー連載セミナー
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