も、大体一週間から10日ぐらいで元気になりますし、絶対にうつになってはいけないとは思っていません。仕事をし過ぎて疲れがたまって何となくストレスが多いと、腰が痛くなるとかあちこち身体が痛くなります。そのときに「あ、この腰痛は多分心身症的にストレスが体に出ているのだろうな」と自分で気付いて、腰痛の薬たくさん飲もうかとか、医者に行こうかとかを考えずに「まあ、ゆっくり休んでみよう」と気持ちを楽に持てば、私の場合は大体3、4日で回復します。大変な仕事をしていたら体が痛むことは当然あるし、軽くうつになることもよくあることです。そういうときに抗うつ薬を飲んだり、医者に行ったりせずに、自分自身でセルフリカバリーをすることがレジリエンスです。今後グローバルに危惧される擾乱として、温暖化や食糧危機、サイバーテロによる情報チェーンの分断、それからパンデミックといわれていますが、パンデミックは実際に起こってしまいました。温暖化の問題では、実際にインドでの熱波や、東京の台風などがありますが、マッキンゼーのレポートでは、東京で100年に一度級の台風が起きた場合、不動産やインフラの被害総額は2050年には1兆6千億円にのぼるだろうと推計しています。つまり、このようなことは起こり得るものとして組織の危機管理をレジリエンスで考えていかなければいけないということです。では組織のレジリエンスを構築するためにはどうすればよいのでしょうか。レジリエンスの3つの要素は「冗長性」「多様性」「適用性」です。8.レジリエンスの3要素:冗長性まず1つ目の要素「冗長性」はムダ・あそび・スペアの部分です。経営の合理化はとても大切なことですが、合理化だけを追求するのは平常時の発想です。大阪と神戸三宮の間は短い区間にJR、阪急、阪神の3本の路線があり、以前から「路線3本は無駄だ」と言われていました。しかし、阪神淡路大震災が起きた時、崩壊した場所が地形の違いでそれぞれ違ったために3路線をうまく乗り継ぐことによって、震災発生後でも大阪と神戸の間は行き来することができました。平常時には無駄だと思えるものでも、組織の中である程度余裕があるのであれば、バックアップとしてこのような冗長性を確保していくことが重要です。冗長性は「想定外への対応準備性」です。9.レジリエンスの3要素:多様性2つ目の要素は「多様性」です。ボーイング777という旅客機はコンピュータシステムを3系統、つまり3種類のOSと3種類のハードウェアを搭載しています。したがって、コンピューターウイルスが1つの系統に入り込んだとしても2つのシステムが動いて完全にシャットダウンすることがありません。飛行機を墜落させないバックアップシステム、多様性が採用されています。多様性は危機的状況が同期してしまうことを予防するシステムです。これから先起こってくるであろう擾乱に備えて、私たちにはこのような多様性が必要です。組織がすべてシャットダウンしてしまうと業務継続性が失われてしまいますので様々な考え方をする人たち、違う考え方をする系統を抱えながら仕事をしていくことが求められます。様々な考え方の人材を許容しながら育てるということ、もちろん譲れない一線はありますが自分と全く同じ考え方をする部下だけを引き連れて仕事をするということは少し古い考えです。10.多様性の一つとしての発達障害発達障害も多様性の一つです。自閉症スペクトラム(アスペルガー症候群)の症状には「コミュニケーション形式の特殊性」と「RRB」(Repeated Restricted Behavior)があります。「コミュニケーション形式の特殊性」とは、言外の意味が汲めず、つまり相手の気持ちが想像できないためにうまいコミュニケーションができない、言葉のキャッチボールができないことです。お前なんか辞めちまえ、と言うと、翌朝、神妙な顔で辞表を持ってきたり、風呂場の水を見てきて、と言うと、水が浴槽にいっぱいなっているのに水を止めてこない。なぜ止めないとかと問うと、見てこいと言われただけで、止めろ、とは言われていません、と返事をする。いわゆる意思疎通の齟齬が生じてしまいます。「RRB」とは、繰り返される、限局74 ファイナンス 2022 Feb.連載セミナー
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