ファイナンス 2022年2月号 No.675
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いうこのメカニズムがとても重要です。3つ目のメカニズムが「カタルシス」です。頑張ってみて、かわしてみて、最後は自分で穴をプチッと開けてボールの内圧をシュッと逃すことです。1気圧に戻ったらまたパッチを当てて健康な状態に戻ります。これは外向きのストレス解消で、飲みに行くとか旅行するとか、愚痴を言う、などですが、緊急事態宣言などの新型コロナの影響で外でのストレス発散ができなくなっています。「カタルシス」が制約を受けると、「耐える」か「かわす」しかありません。四角四面でまじめな人は「かわす」こともできず「耐える」しかないので爆発してしまいます。こうしたことが緊急事態宣言下では起こりやすいのです。ただ、宇宙では、年がら年中リソースが制限されていて、そういう中で、どうメンタルを維持していくのか、ということが私の専門分野です。リソースが大幅に制限されているコロナ禍で、自分のメンタルをどのようにコントロールして人間関係を良好にしていけばよいのかということを、これからお話します。6. コロナのパンデミック下での メンタルヘルスの心構えコロナ禍におけるメンタルヘルスの心構えについて、要点を2つお話しします。一つ目は「気づきとセルフケア」です。自分自身で不調にきちんと気づくことと、それに対してセルフケアをするスキルを身に付けることが非常に大切です。二つ目が「コミュニケーション」です。コロナ禍においてFace to Faceではなくリモート勤務になり、コミュニケーションの量が減っていますが、量が減るのであれば質を向上させる、つまり良好な人間関係をもっと増やせば良いのです。自分の感情の状態を正しく把握でき、同時にそれが他人にどのような影響を与えているかを十分認識できるself awarenessは非常に重要です。今日は体調が悪いとか、今日はどうも疲れやすいといった気づきだけでなく、特に管理者の方は自身の気分がどれだけ部下に悪影響を与えているのかを知る必要があります。上司の機嫌が悪いと部下も不快な気分になるということに気が付かなければいけません。セルフケアに関しては、コロナ禍で飲みに行ったり旅行に行ったりできませんので、内的なストレス解消に頼らざるを得ません。自分の内側だけでストレスを解消していく必要があります。そのためには支援者を活用するというしたたかさが必要です。自分の周りのリソースを活用し尽くす、「立っている者は親でも使え」というしたたかな発想をしていかないと、今の状況ではうまくセルフケアができません。7.レジリエンス組織において重要なのは「業務の継続」です。想定外の様々な事態が起きた時に業務継続性をいかに確保するかという観点で、レジリエンス(resilience)が必要になります。レジリエンスはストレス耐性を超えた概念です。想定外の出来事は起こるもので、想定外の出来事で組織が破綻してもそこから早く回復しましょう、という広い概念がレジリエンスです。システムに何らかの擾乱(秩序の大きな乱れ)が生じた場合、まずはレジスタンス(壊れにくいこと)が大事です。それに加えて、壊れた後に素早く回復できるリカバリーが必要です。レジリエンスとは壊れにくく、壊れた後に素早く回復できる性質のことです。東日本大震災では10メートルの津波が押し寄せ、安政大地震の津波を教訓にして作った3メートルのスーパー堤防を大きく超えてしまいました。それならば今度は高さ10メートルのスーパー堤防を数十キロにわたって作ろう、というのはナンセンスです。土木業界において言われているレジリエンスは「防災から減災へ」です。完全に津波を防ぐことを考えるよりも、津波が堤防を乗り越えてしまったときになるべく早くリカバリーできるように、電源を高いところに置く、住宅を高いところに建てる、といった「秩序が大きく乱れてしまった時にできるだけ早くリカバリーできるようにしていきましょう」という考え方です。「耐える」ではなく、リカバリーのしやすさを構築しましょうという考え方がレジリエンスです。これは、組織だけではなく個人もそうです。私は精神科医ですが、時々うつになります。うつになって ファイナンス 2022 Feb.73上級管理セミナー連載セミナー

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