の自殺報道が引き金になっています。これは「ウェルテル効果」といわれているもので、有名人が自殺をすると後追い自殺が増えます。これで引き金を引かれてしまい、自殺者数が有意に増加することになったのです。20代~30代、無職、独居女性の自殺者が増えました。仕事がなくなり、会社で話す機会がなくなり、緊急事態宣言で遊びにも行けなくなってしまい、完全なコミュニケーションロスです。政府の自殺対策等もあり、2014年からトレンドとして自殺者は減少してきているのですが、不幸なことに2020年7月以降リバウンドしてしまいました。2020年4月から6月に自殺者が減少した要因は何かというと、これは推論ですが、全く正体のつかめないコロナウイルスに対する恐怖、コロナ禍においての死への恐怖だと思います。タレントの志村けんさんが突然亡くなってしまったことにショックを受けて、最初の緊急事態宣言中は街がひっそりしていました。そして、何とかみんなで協力してやっていこうと社会的連帯感が高まったので、その間は自殺が減ったのです。ところが7月になると、オンラインという新形態のストレスと自粛によるストレスの限界がきました。こうしたところに、俳優の自殺がきっかけとなり、メンタルヘルスがどんどん悪くなるという状況でした。4.現代の「うつ」の2類型産業医学の現場から見た「うつ」には2種類あります。一つは「消耗型」で、完全に過重なストレスが原因で心身が電池切れの状態になってしまったり、もしくは40代後半あたりではしごを外されて、やりがいと目標を喪失して完全にバーンアウトしてしまうものです。いずれも心身が完全にエネルギー切れになって消耗してしまったうつです。これに対して、もう一つは20代、30代に多い「未熟型」と言われるものです。俺はこんな仕事をするために会社に入ったのではない、あそこに異動させてくれればバリバリ仕事するのに、他の課長の下だったらバリバリ仕事するのに、というように隣の芝生が青く見えてしまい、あそこに異動したい、ここに異動したい、俺が悪いわけではない、と人のせいにばかりします。このうつの特徴は「消耗していない」ことで、原因は人格の未成熟に尽きます。良い学校を出て、厳しい採用試験を経て、会社に入ってきたにもかかわらず子供なのです。自己愛が強く、根拠のない万能感があります。「消耗型」への対応は、「激励禁忌原則」です。「消耗型」の患者を激励するとうつが深くなって自殺に至ることもありますので、しっかり休ませて、完全に水が抜け落ちた風呂桶に水を溜めることが治療の原則です。一方「未熟型」の場合は、我儘なだけで水は溜まったままですから、人格を成熟させることが必要です。彼らには「頑張れ」と言う必要があるのですが、良好な人間関係が成立していないままの状態で言うと、上司は激励禁忌原則を知らないと訴えられたりします。そこで「未熟型」うつの若者に対しては、一緒に頑張ろう、と言うことが効果的で、彼らを成長させていくマネジメントが必要になります。私の研究室のデータでは、「未熟型」の若者をきちんした支援体制の下におくと、約8か月で上手くいくようになります。彼らは未熟なだけでもともとは賢いので、未成熟な部分を支えてあげると一皮むけるようになります。ですから、「未熟型」の若者を差別したり、陰性感情で対処したりしないことが重要です。5. ストレス状況を解消する心の メカニズム私たちはストレスに対して無意識に「耐える」「かわす」「カタルシス」の3つのメカニズムを使い分けて健康な心の状態を保っています。上司からの厳しいプレッシャーに対して、まずは歯を食いしばり、足を踏ん張って耐えます。ボールに例えて言うなら、ボールに指で圧力を加えると、内圧を高めて跳ね返します。その状態です。次に、現代人にとって重要なストレス解消のメカニズムが「かわす」です。ストレスを全部受け止めるのではなく、ものの見方を柔軟にすることによってストレスを30%ぐらいは逃してしまうことです。私は宇宙飛行士の選抜に携わってきましたが、宇宙飛行士を選抜するに当たって最も重要なのはここです。宇宙では想定外のことばかり起こりますし、ストレスを解消するリソースが制限されているので、ものの見方の柔軟性で勝負していくしかありません。自我防衛機制と72 ファイナンス 2022 Feb.連載セミナー
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