財務総合政策研究所Ministry of Finance, Policy Research Institute1.千本ノック:上司と部下の信頼関係コロナ禍で今世の中が大変なことになっています。徐々に回復してきていますが、まだまだ自粛生活を求められてリモート等も多かろうと思いますので、そういうことを含めて、メンタルヘルスのリスク管理、そしてハラスメントについても言及していきたいと思います。まず、人を育てるために「千本ノック」は必要でしょうか。改正労働施策総合推進法が施行されて以来「これはハラスメント該当、これは大丈夫」といったマイクロマネジメントになってしまっていますが、指導的な立場にある方々は「千本ノックをしないと人は成長しない」と心の底で思っています。結論を言いますと、千本ノックは必要です。そうしないと人は育ちません。ただし、ハラスメントには分岐点があって「この人に言われたから仕方ない」と思うか、「お前に言われたくない」と思うか、これが分岐点です。同じような強圧的な指導をしていたとしても、「ハラスメントだ」と思われてコンプライアンス違反として通報された時点で信頼関係は崩壊していますから指導になりません。ですから、OKワード、NGワードというマイクロマネジメントにとらわれるのではなくて、どのようにしたら上司と部下の間で信頼関係を構築できるか、という視点で見直していかなければいけません。エドガー・シャイン(米国の心理学者)は「よい関係を築くためには、人の面目を保持するという文化的なルールを遵守することが重要である」と言っています。部下と上司の間でよい関係が構築できているかどうかが、ハラスメント事案として問題になるかどうかの分岐点となります。ハラスメントをもちろん肯定するつもりはありませんし、厳しい指導や威嚇をしていいなんて一言も言っていません。ただし、マイクロマネジメント的なことにとらわれることなく、まずはよい人間関係を構築するリーダーシップとは何か、ということが大事だということは言いたいのです。2.「一皮むける」ための境界経験厳しい指導を受ける経験のことを「境界経験」といいます。人間が成長するには「一皮むける」ことが必要で、そのためには、どこかで「境界経験」を通過する必要があります。アフリカの部落の男の子たちは、ある年齢になると集められて一週間山にこもり、狩猟や厳しい経験を積んで、最後に肝試しでバンジージャンプをします。それを経て山から下りてくると、一人前の狩のできる男になっているということです。「一皮むける」体験としての「境界経験」は、文化人類学でも言われているところです。ぎりぎりの厳しい経験させて、上司が支援しながら「一皮むけさせてあげる」ことが大切だと思います。3.コロナ禍とメンタルコロナ禍における自殺者数をみると、2020年7月以降増加していますが、一方、2020年の4月から6月は例年より減少しています。2020年7月以降の自殺者増加のきっかけは、俳優令和3年9月30日(木)開催上級管理 セミナー松崎 一葉 氏(筑波大学大学院医学医療系 産業精神医学・宇宙医学研究グループ 教授)運営リスク管理としての メンタルヘルス ~レジリエンスとリーダーシップ~演題講師 ファイナンス 2022 Feb.71連載セミナー
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