サ高住の魅力と今後の課題・新しい住宅への住み替えにおいて、費用面以外では「住み慣れた地域を離れること」が最も不安視されている(図表9)。しかし、地域に安心して住み続けるための必要事項として「近所の人との支え合い」があげられていることを踏まえると(図表10)、早いうちに高齢者向け住まいに移住し、地域内で交流を深めて住み慣れた地域とすることで、快適な老後生活を送ることができるだろう。・特に、サ高住は、「バリアフリー構造であること」「安否確認や生活相談が受けられること」という2つ基本要件を満たすだけでなく、「地域内・多世代交流」や「医療機関との連携」など、高齢者の求めるサービスを提供している事例も多く(図表11)、「安全・安心」と「生活の自由」の双方を兼ね備えた有力な選択肢である。・しかし、現時点で、サ高住などの自立型高齢者住宅において、自立した高齢者の受け入れ割合は10%を切る水準になっている(図表12)。これは、要介護度の高い高齢者の需要に特別養護老人ホーム等の供給が追い付いていないことが要因としてあげられる(図表13)。今後は、高齢者が自身の状態に適した住まいを選べるように、高齢者住宅全体のさらなる拡大が必要であろう。(図表9)住み替えにおける不安事項10.6%14.9%15.2%30.5%33.4%43.5%今の住まいの取り扱い(維持管理もしくは売却)引っ越しなど住宅環境の整備が面倒病院や商用施設等の近隣環境が整っている場所が少ない住み慣れた地域を離れること特にない費用が掛かる50%40%30%20%10%0%(図表10)地域に安心して住み続けるための必要事項13.4%13.5%29.1%30.1%35.2%42.6%49.9%55.9%多世代が支え合える場民間事業者によるサービス経済的な余裕・資産移動手段や商業施設などの生活環境の利便公的機関からの援助(介護サービス情報の提供等)かかりつけ医等健康面での受け皿家族や親族の援助近所の人との支え合い60%40%50%30%20%10%0%(図表11)サ高住の事例物件名称所在地開設年月概要アンダンチ レジデンス宮城県 仙台市2018年 7月・サービス付き高齢者向け住宅を核として、レストラン・カフェ、保育所、障害者就労支援事業所、看護小規模多機能居宅介護事業所を複合的・一体的に整備したプロジェクト・地域の方が企画・運営するイベントが盛んで、多世代交流が生まれている銀木犀東京都 足立区2015年 5月・介護予防から医療機関と連携した看取り対応まで実施・駄菓子屋、食堂を併設し、地域住民との交流活動も積極的に実施するとともに、店番を入居者が努め、自立支援・社会参加を支援(図表12)サ高住入居者の要介護度等7.4%5.0%8.1%5.0%6.7%7.9%19.1%22.2%18.4%19.6%16.1%13.7%16.3%11.1%11.6%6.8%1.1%3.8%サ高住有 料老 人ホーム自立(認定無)要支援1要支援2要介護1要介護2要介護4要介護5不明等要介護3100%80%60%40%20%0%(図表13)特養待機高齢者の推移28.9万人34.5万人29.5万人29.2万人13.2万人17.8万人要介護1,2要介護3以上0万人80万人60万人40万人20万人2009201320162019海外事例と住まいの新しい選択肢・自立した高齢者の住まいの選択肢として、アメリカでは住居・医療施設・ゴルフ場等を中核に娯楽施設が整備されたリタイアメント・コミュニティが従来から存在したが、介護サービスや施設が不十分であった。そこで、1990年代以降、健康な段階から要介護になるまで、健康状態に応じた住まいとサービスが用意され、そのコミュニティの中で暮らすことができる「CCRC(Continuing Care Retirement Communityの略、図表14)」が増えている。・当初のCCRCはシニア世代だけの交流がメインであったが、近年は世代の偏りや知的刺激の不在を解消するための大学連携型CCRC等(図表15)も拡大してきており、地域内・多世代交流を望む日本人のニーズにも応えるものとなり得ると考えられる。・実際に日本でも、高齢者が就労や文化活動を行いながら多世代交流も可能なCCRC(図表16)の開発が進められ始めており、一部では、多世代交流に加えて、生涯学習などで知的満足度の向上も提供できる大学連携型CCRCの検討も始まっている。今後については、サ高住等の供給の増加はもちろんのこと、幾多の日本版CCRCの事例が生み出されていくことにも期待したい。(図表14)CCRCの概要高齢者住宅主たる 入居者主たるサービスCCRCの範囲日本の高齢者施設の範囲CCRC高齢者向けマンション等主に前期高齢者介護予防・軽度の 介護支援サ高住各種老人ホーム主に後期高齢者軽度の 介護支援グループホーム認知症対応特別養護老人ホーム重度の介護(図表15)アメリカにおけるCCRCの事例CCRC名称開設年月概要KENDAL at Hanover1991年NPO法人が運営する敷地面積26万㎡、居住者数約400人のCCRC。ダートマス大学とダートマス大学病院と提携している。居住者はダートマス大学において生涯学習講座(ディスカッションスタイル)を受講可能。Classic Resident2005年スタンフォード大学の敷地内で、ハイアット・コーポレーションが運営する敷地面積9,1万㎡、388居室のコミュニティ。居住者は毎晩のフルコース料理に加え、フィットネス、カルチャー、ゲーム、芸術など様々な部門で多彩なプログラムを楽しむことが出来る。ケアを必要とする住人用の居室も106室用意されており、教養娯楽とケアという双方の需要に応じたサービスが提供されている。Longview community1999年イサカ・カレッジと提携しており、低所得者が利用できることが特徴のコミュニティ。居室数は161部屋で、ケアを必要とする住人用に60居室が用意されている。住人はプールやリズム体操、編み物など様々なクラスに参加できるほか、大学生と一緒に授業やイベントに参加でき、図書館などのカレッジの施設も利用することもできる。(図表16)日本におけるCCRCの事例物件名称所在地開設年月概要グランドマスト江古田の杜東京都中野区2018年 8月・約4haの敷地のハウスメーカー・医療法人・UR都市機構の共同による複合開発。自立型のサービス付き高齢者向け住宅のほか、分譲・賃貸マンション、学生寮、有料老人ホーム、病院、コミュニティ拠点等を隣接整備。・地域の世代循環・コミュニティ形成をエリア全体で取り組みウエリスオリーブ武蔵野関町東京都練馬区2017年 7月・サービス付き高齢者向け住宅と分譲マンションとの一体開発事業。多世代コミュニティの醸成を担う外部開放型交流施設(つなぐカフェ)を整備シェア金沢石川県金沢市2013年 9月・健康な高齢者が、就労ボランティア、農作業、住民自治等を行う。また、学生、障害児、地域住民との他世代交流が盛ん。・天然温泉、レストラン、ライブハウスなどのアミューズメント施設、人と人との交流を楽しむ施設や機能がある。たまむすびテラス東京都日野市2011年 10月・若者、ファミリー、高齢者を対象とする共同住宅が隣接(UR賃貸住宅を再生)・公募で選ばれた3社が多世代交流が育まれる住まいづくりをめざし、計画段階から連携。お互いのイベントに招待し合うなどゆるやかな交流が生まれている。(出典)総務省「国勢調査」「住宅・土地統計調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」「日本の世帯数の将来推計」、厚生労働省「特別養護老人ホームの入所申込者の状況」「介護サービス施設・事業所調査」「高齢者向け住まいの今後の方向性と紹介事業者の役割」、国土交通省「サービス付き高齢者向け住宅に関する懇談会配布資料 第3回・4回」、内閣府「一人暮らし高齢者に関する意識調査結果」「高齢者の住宅と生活環境に関する調査結果」、株式会社日本政策投資銀行「日本版CCRCから「生涯活躍のまち」へ」、PwCコンサルティング合同会社「高齢者向け住まい等の紹介の在り方に関する調査研究報告書」、小向敦子「シニア・コミュニティのゆくえ:アメリカと日本における大学付属型高齢者住宅群」、日本版CCRC構想有識者会議「「生涯活躍のまち」構想 参考資料」 (注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。 ファイナンス 2022 Feb.67コラム 経済トレンド 92連載経済 トレンド
元のページ ../index.html#71