せて指摘しており*23、また、筆者が所属するIMFにおいても、近時のサーベイランス等においては必ずと言って良い程、コロナ関連支出の適正性について検討・議論が行われている*24。さて、汚職に対する地下資金対策の面からの具体的対応として、現行のFATFの枠組み及びそれを受けた我が国の国内法令においては、政治家や政府高官等の重要な公的地位を有する者を「PEP(Politically-Exposed Person)」と名付け、マネロン・リスクが高い顧客として、特に厳重な顧客管理等の対象とすることとしている*25。この略称は、会話中ではそのまま発音され、「ペップ」又は複数形にして「ペップス」として用いられる。このPEPであるが、FATF基準においては本来、国内・国外双方の要人を含むものとされている*26。しかし現実には、国内PEPを自国法制でカバーできているのはごく一部の国に留まり、日米を含む先進国を含め、外国の要人等しか対象とできていない国が大半である。これでは、例えば外国政府高官に自国の金融機関をマネロンに悪用されることは検知できても、足元の自国要人のマネロンには十分に対応できない。この点に関しては、FATF基準が世界全体として実質的には遵守されておらず、理想と現実が大きくかけ離れている領域と言えるだろう*27。国内PEP対応が世界的に進まない理由は、以下の2つであると考えられる。まず第一の理由は、前述の通り、そもそもの反汚職規制の源流が外国政府への贈賄規制であることと関係する。つまり、FATFの中核を担う米国を初めとする先進国にとって、歴史的に見れば主要な関心は途上国を中心とした他国政府の汚職であり、それに自国企業が巻き込まれることをいかに防ぐかにあった。他方で、先進国においては相対的に自らの政府に対する信頼は高く、自国内の汚職は、必ずしも切迫した課題とは感*23) COVID-19-related Money Laundering and Terrorist Financing - Risks and Policy Responses, FATF, May 2020*24) Implementation of Governance Measures in Crisis-Related Spending, IMF, May 2021 Keeping the Receipts:Transparency, Accountability, and Legitimacy in Emergency Responses, Special Series on Fiscal Policies to Respond to COVID-19, IMF, April 20, 2020 Budget Execution Controls to Mitigate Corruption Risk in Pandemic Spending, Special Series on Fiscal Policies to Respond to COVID-19, IMF, May 19, 2020*25) FATF勧告12、有効性指標4等、更に以下のガイダンス。 Politically-Exposed Persons(Recommendations 12 and 22), FATF Guidance, June 2013 国内法令においては、犯収法第11条第2号・第3号、金融庁マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン(マネロンガイドライン)II-2等。*26) FATF用語集(Glossary)によれば、「外国PEPsとは、外国において特に重要な公的機能を任せられている、又は任せられてきた個人であり、例えば国家元首や首相、高位の政治家、政府・司法・軍の高官、国有企業の上級役員、重要な政党役員をいう。国内PEPsとは、国内において特に重要な公的機能を任せられている、又は任せられてきた個人であり、例えば国家元首や首相、高位の政治家、政府・司法・軍の高官、国有企業の上級役員、重要な政党役員をいう。(以下略)」とされる。*27) Chaikin & Sharman, Corruption and Money Laundering – A Symbiotic Relationship, Palgrave Macmillan, 2009, P.101-105じていない。地下資金対策において、本来であれば率先垂範すべき先進国であるが、この分野に関しての政策的動機は高くないのである。第二の理由は、地下資金対策の本質的困難性に関わるものである。つまり、先進国・途上国問わずいかなる国家の官僚機構においても、自分達のトップに立つ高官、更には国家元首を含む政治指導者達を相手にして、「あなた達が汚職をする可能性があるので、厳重なモニタリング対象にします」という法案を政治アジェンダに掲載することは、極めて難しい。それどころか、官僚機構の末端にまで汚職が蔓延しており、自縄自縛となり得る法令の起草など、スタートラインにすら立てない国もあるだろう。正に、国家が生み出す地下資金を国家自身が防圧することの難しさが、ここに象徴的に見て取れる。4.「体制間競争」としての戦略化民主主義サミットには正副大統領に加えブリンケン国務長官も出席し、米国としてのコミットメントの強さをアピールした。(出典:U.S. Department of State from United States, Public domain)さて、このようにして複数の政策分野からのアプローチが合流し、今や大きな世界的潮流となっている反汚職法制であるが、ここに至り、更に新たなる展開を見せている。2021年に就任したバイデン米大統領64 ファイナンス 2022 Feb.連載還流する 地下資金
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