ファイナンス 2022年2月号 No.675
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なお我が国も同条約に加盟するとともに、主に不正競争防止法に関連規定を盛り込むことによって国内法対応を行った。現在、経済産業省がその国内的実施を担っており、関連する啓発活動も行っている*2。また、この条約の下で参加各国には数年に一度、相互審査メカニズムにより評価が行われているが、これは「実質的にはFATFの手続きの模倣」とも評価されるものであり*3、この制度の導入時辺りから、反汚職とマネロンは近接性を持つ分野として意識され始めたものと見ることができる。なお、この相互審査メカニズムの下、日本に対する直近の審査は2019年に、更にそのフォローアップが2021年に実施され、それらの結果はレポートとして公表されている*4。2.開発政策からのアプローチ反汚職法制に係るもう一つの流れは、開発政策学の領域に水源を発する。前節で説明した、OECD条約に結実する米国発の反汚職法制の流れが、途上国への投資活動に着目した、言うなれば先進国目線のものであったのに対し、こちらは途上国自身の目線に立った*2) 同省ホームぺージ(https://www.meti.go.jp/policy/external_economy/zouwai/index.html)*3) 中川淳司『経済規制の国際的調和:IX国際経済犯罪規制の国際的調和(第24回)』貿易と関税、日本関税協会、2008年1月*4) Implementing the OECD Anti-Bribery Convention, Phase 4 Report:Japan, OECD, July 3, 2019 Implementing the OECD Anti-Bribery Convention, Phase 4 Two-Year Follow-up Report:Japan, OECD, October 13, 2021*5) 石井由梨佳『越境犯罪の国際的規制』有斐閣、2017年8月、P.335-337 Vito Tanzi, Corruption Around the World:Causes, Consequences, Scope, and Cures, IMF Working Paper, May 1998発想である。より具体的には、1990年代初頭から推進されたグッド・ガバナンス(良き統治)の議論であるが、ここにおいて、交通インフラや教育・医療制度といったハード・ソフト双方のインフラに加え、ガバナンスが開発途上国における経済発展の鍵を握る重要な要素の一つとして、認識されるに至る。その背景には、メディアやネットの普及による情報化とそれに伴う市民活動の高まりや、アジア金融危機等を契機に、これらの国・地域での汚職の問題がフォーカスされたこと等があるとされる。しかし、それにも増して大きいのが冷戦構造の崩壊である。冷戦下では途上国の共産化を防ぐために、これらの国々の汚職の問題は、西側諸国から戦略的に敢えて見逃されてきた。冷戦の終焉は、そのような「お目こぼし」の必要性を消滅させ、逆に、旧東側途上国の市場化に伴って、これらのビジネス・パートナーとしての規律を高めることこそが、要請されるようになったのである*5。このような潮流に伴い、世銀・OECDを始めとした国際機関、日本を含むバイラテラルのドナー、NGO等が大規模に反汚職の取組みを展開し、これに呼応するように、アカデミアにおいて図表2: 世界各国の最新汚職度インデックス。廉潔性上位には、北欧諸国やシンガポール・スイス等が並び、日本は19位。下位の国は、ソマリア・南スーダン・シリア等の内戦国が中心。(Transparency International)60 ファイナンス 2022 Feb.連載還流する 地下資金

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