ファイナンス 2022年2月号 No.675
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れを受け、同年12月発足のフェルナンデス現政権下で総額約1,000億ドルの外貨建て債務を対象とする民間債権者等との債務再編交渉が開始されましたが、当初2020年3月末目途の解決を目指していた交渉は難航し、同年5月22日に猶予期間が終了する債務の利払いが行われなかったことからアルゼンチン史上9度目とされる債務不履行(デフォルト*9)に陥りました。その後、度重なる交渉期限延長の末、同年8月に民間債権者団との合意に至り、同年9月4日に債券交換が実施されたことでデフォルト状態から脱却しました。しかしこれをもって一件落着とはならず、すぐに国際通貨基金(IMF)との債務再編交渉が始まりました。IMFとの関係では、2018年の為替危機に対応するため5年間のスタンドバイプログラムに基づく計約450億ドルもの大型融資が実施されていましたが、現政権は、持続可能な返済スケジュールを求めるため、最大10年間の融資期間を可能にする拡大信用供与プログラムによる借換えを目指すことを決定しました。ところが昨年中は現行スケジュールに基づく返済額が小さく、また外貨準備にも比較的余裕があったためさほど切迫感がなかったのか、現在(本年1月末時点)もなお交渉は継続中です。しかし本年3月以降は大型の満期が連続し、かつ外貨準備も切迫した水準に陥りつつあることから、「10回目」のデフォルト*10を避けるためには早急に合意をまとめる必要があります。他方、国民は、2001年のデフォルト時にIMFから緊縮財政を強いられたことで預金封鎖などの苦境に陥ったとの思いから一般にIMFに対する感情的アレルギーを有しているところ、交渉に向けた社会的なモメンタムが必ずしも強くない中で、国会の承認も必要となるIMFとの合意案をどのようにまとめるのかが注目されます。また、もう一つデフォルトを避けるために解決しなければならない問題として、パリクラブ*11に対する債務が存在します。アルゼンチンは、クリスティーナ・フェルナンデス政権下の2014年、パリクラブ諸国に負っていた延滞債務約97億ドルを今後5年間(プ*9) 当時の外貨準備高の水準を考慮すればただちに返済不可能となるものではなかったものの、自ら支払いを行わないことを選択したという点で所謂テクニカル(選択的)デフォルトと位置付けられます。*10) IMFに対する債務不履行状態はアリアと呼ばれますが、本稿では便宜上デフォルトと表現します。*11) 主要債権国による二国間債務の繰延等を扱う非公式会合。1956年にアルゼンチンの延滞債務について債権国がパリで協議したことに由来します。*12) パリクラブによる債務繰延は、当該債務国が別途IMFとの融資プログラムに合意していることが前提となっています。ラス2年間の猶予期間付き)で全額返済することでパリクラブと合意していましたが、結局2019年までに払い終えられないばかりか、IMFとの交渉継続中を理由として*12昨年5月末の最終期限をも徒過することを選びました。2014年合意の内容に則ればパリクラブはその60日後にデフォルトを宣言できることになりますが、昨年6月、政府はパリクラブに対し約4.3億ドルの一部返済を実施することと引換えに、パリクラブが最長本年3月までデフォルト宣言を留保することで一致した旨発表するに至りました。いわば更なる短い猶予期間を与えられている状態です。IMFとの合意が得られない限りパリクラブとの関係でも進展は期待できないことから、今後の政府の対応如何では「10回目」に留まらず「11回目」をも引き起こす可能性があります。しかし本年1月28日、誰もがデッドラインへの突入を確信しつつあった中で、政府とIMFは主要論点に関する共通理解に達したことを電撃的に発表しました。最終合意までのハードルは多く、今後の道程も決して容易ではありませんが、債務危機の終わりへの明るい兆しが僅かに見え始めているのかもしれません。 5 南船北馬《中国の南方は川や湖が多いので船を用い、北方には平原や山野が多いので馬に乗るというところから》絶えず旅していること。各地をせわしく旅すること。『大辞泉』これは中国の故事成語ですが、南部に多くの湖沼や大西洋を擁しながら北部には荒涼とした高原山岳地帯の広がるアルゼンチンにもまさにふさわしい表現であると感じます。もっとも、馬よりリャマかアルパカの方がアルゼンチンの北部には適任かもしれません。最近は行動規制が緩和され、感染対策プロトコルを遵守すれば国内各地をせわしく旅することも可能になりました。この項では、意外に知られていないアルゼンチンの北から南までの風景のごく一端を簡単にご紹介します。 ファイナンス 2022 Feb.55海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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