減価しています。こうした状況なので基本的に国民は自国通貨アルゼンチンペソを信用していません。ペソ建ての銀行口座には必要最低限の現金のみ入金しておき、余剰分はドルへ両替するかまたは自動車などの換金可能資産を購入して貯蓄するのが通常の生活様式です。国民の高いドル需要は外貨準備への強い圧力となっており、政府・中銀は外貨の流出を抑制するため数多くの資本規制を敷いています。マクリ前政権前半期には開放経済を推進する観点からこれら規制が撤廃されたものの、2019年の大統領予備選挙後に資本流出が深刻化すると再び復活し、フェルナンデス現政権への移行後は更に強化されています。現行の外貨取得規制の一つが、為替市場における外貨購入可能枠をわずか200ドル/月に制限するものです。しかし、余裕のある富裕層及び中産階級は、当然より多くの手持ちのペソをドルに換えて資産防衛をしたいと考えます。アルゼンチンでは、そうした需要に応えるべく古くから為替の非正規闇市場が存在し、ブルーレートと呼ばれる非公式為替レートによる両替が行われています。ブエノスアイレスのメインストリートであるフロリダ通りを歩くと、至るところで「カンビオ(両替)!」と声をかけられますが、それこそがブルーレートによる両替の勧誘*8です。非正規為替市場は、正規購入可能枠以上の外貨を多少割高でも購入したい国民が主に利用する小規模マーケットであることから、一時的な外貨*8) 外貨をペソに換える海外旅行者にとっては正規両替所よりも有利なレートでの両替ができますが、闇市場を利用することになるため推奨されるものではありません。需要の増減によってもブルーレートは大きく変動します。今後の経済政策がペソの価値を安定させられるとの政府への信頼感を多くの国民が持てるようになれば、外貨需要が落ち着きブルーレートと正規レートとの差も縮小に向かうことになると思われますが、現実にはブルーレートは1ドル=208ペソ(2021年末時点)と正規レートの2倍超もの開きが生まれている状況です。インフレ年率の推移01020304050607080901002018/12018/52018/92019/12019/52019/92020/12020/52020/92021/12021/52021/9(出所:INDEC)2021/12(4)10回目のデフォルト?アルゼンチンは、2016年にマクリ前政権下で国際金融市場への復帰を果たしましたが、2018年4月の為替危機以降、資本流出等により資金調達面での制約を抱え、更に2019年8月大統領予備選挙の結果、政権交代の見通しが明らかとなったことで政治リスクが懸念され、政府債務の借換が不可能になりました。そ為替レート及び外貨準備高の推移300350400450500550600650700750306090120150180800210外貨準備(億ドル、右軸)為替レート(ペソ/1ドル、左軸)ブルーレート(ペソ/1ドル、左軸)10月7月4月1月10月7月4月1月1月7月4月10月2021年2020年2019年(出所:BCRA、Ambito Financiero)9/1資本規制復活10/27大統領選資本規制強化8/11予備選後ペソ急落為替ギャップ最大150%8/23IMFのSDR新規配分9/22、12/22IMFへの元本返済54 ファイナンス 2022 Feb.連載海外 ウォッチャー
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