時は1人当たりGDPで世界トップ10に入ることもあったと言われます。しかし世界大恐慌以降、政府が輸入代替戦略のもと工業促進に舵を切ったことで、投資先が分散し、農業生産及び輸出は激減することになりました。その後、第二次世界大戦後の世界的な復興の中でペロン大統領のもと内需により一時的に好況を取り戻した時期もありましたが、基本的に保護主義に依存したことでグローバリゼーションの波に乗り切れず、現在に至るまで慢性的な高インフレと対外債務の問題に悩まされ続けています。(2)最近の経済概観現在もアルゼンチン経済の基盤は、肥沃で広大なパンパ平原に支えられた農牧業です。特に大豆、小麦、トウモロコシ、牛肉は輸出品の大宗を占める屋台骨と言っても過言ではありません。工業面では、トヨタをはじめとする自動車メーカー各社が国内に拠点を置き、中南米向けの自動車生産の一翼を担っています。2021年、これらの輸出セクターが世界的なコモディティ価格高騰の恩恵により全体として好調な輸出額を維持し、その一方で輸入が抑えられたことで、年間を通じた貿易収支は約150億ドルと記録的な数字となりました。GDP成長率については、2020年はパンデミックにより前年比▲9.9%の大幅な減少を記録していましたが、2021年は輸出の堅調さと内需の回復に支えられ、前年の落ち込みを一気に回復し+10%に迫るとの予測も伝えられています。これに連動して失業率は低下傾向にあり、2020年の11%から2021年第3四半期には8.2%まで改善しました。他方、貧困率*7は依然として40%超で高止まりしています。*7) アルゼンチンの貧困率の基準となる基礎的バスケットには、PC、携帯電話、外食など必ずしも生活必需品と見なされない財・サービスも含まれており、他の中南米諸国と比較して基準が厳しいとの指摘もあります。産業政策の観点からは、政府は、これまで開発の進んでいなかったシェールガスなどの炭化水素資源を豊富に擁するバカ・ムエルタ鉱区への官民合同での投資を行い燃料の輸入代替を目指すとともに、将来的な水素及びアンモニアの産業利用を見据えた検討を進めています。また、世界有数のリチウム埋蔵量を有するとされるアンデス山脈沿いの塩湖地域の開発プロジェクトも外資主導のもと開始しており、アルゼンチンの資源ポテンシャルを最大限に引き出すための取組が急ピッチで進められている状況です。政府経済見通し2020実績20212022インフレ率+36.1%+45.1%+33.0%為替(年末)(ペソ/米ドル)82.6102.4131.1GDP成長率▲9.9%+8.0%+4.0%貿易収支(億米ドル)+124+129+93(出所:経済省、2021年9月)(3)高インフレとブルーレート直近数年間、アルゼンチンの消費者物価指数は年率50%程度の上昇を記録しています。過去数千%ものハイパーインフレを経験したことに比べれば穏やかなものですが、依然として不安定な数字には変わりありません。また、現在パンデミックにおける経済対策として生活必需品に対して一定の価格統制が実施されていることを踏まえると、それ以外の耐久消費財や外食などの価格は更に高騰していることになり、実際の肌感覚では一年前と比べ二倍以上に値上がりしているものも少なくない印象です。為替を見ても通貨価値は下がり続けており、この四年間で1ドル=18.8ペソ(2017年末時点)から1ドル=102.6ペソ(2021年末時点)まで約450%パンデミック第二波に対し、政府は当初、旅行需要の減少を目的とする策の一つとして、四連休の中日を平日に変更することを発表していました。しかし結局厳格なロックダウンに踏み切ったことから、人流の増加を心配する必要がなくなったということで、なんと前日(!)にやはり四連休のままにすることが改めて決定されました。こうした政府による些か急なアナウンスに対して、不思議なことに国民から反発の声はほとんど聞こえてきません。マスクについても、昨年10月以降屋外での着用義務が撤廃されたにも関わらず、40℃を超える猛暑の中でも相当数の市民が引き続き自主的に着用を続けている様子が見られており、皆で連帯して難局を乗り切ろうとする忍耐力の強さとモラルの高さがうかがえます。コラム2意外(?)に高い民度 ファイナンス 2022 Feb.53海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー
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