のロックダウンに突入しました。当初は感染者が少ない中での毅然とした決断を国民も評価し、政権交代直後だったフェルナンデス大統領の支持率は一時80%に達したものの、その後の感染拡大やロックダウン長期化により不満が高まり、現在では不支持率が支持率を上回る状況になっています。強制隔離措置が約9か月間継続した後、2020年12月20日以降はソーシャルディスタンスを保ちつつ社会活動を再開するため強制距離措置と呼ばれるより緩やかな規制に置き換わり、事実上のロックダウンは終了しました。長期間に亘ったステイホーム生活により、平時には日常的に行っていた家族や友人とのアサード(バーベキュー)やマテ茶の回し飲み*6も制約された市民の疲弊は相当なものがあったと推察します。その反動から、夏のバカンスシーズンに当たる昨年1~2月の人出は目に見えて増加し、3月以降のパンデミック第二波の到来を許すことになってしまいました。政府は、5月に再び一時的なロックダウンを実施し市境を封鎖するなど人流を抑え込むために出来ることは全てやり、一日の新規感染者数は最大4万人を超えたもののそれをピークとして下がり続け、最終的に千人未満まで減少しました。この沈静化の背景として、全国的にワクチン接種プログラムが比較的早急に進められたことも指摘できます。政府は、早くからワクチン接種を政権の優先課題と位置付け、保健大臣を直接海外での交渉に当たらせるなど精力的にワクチン確保を進めました。当初こそ調達に遅れが見られたものの、昨年半ば以降加速し、本年1月末現在、スプートニクV、シノファーム、アストラゼネカ、モデルナ、ファイザー、カンシノのワクチンにより総人口比約86%に一回目接種、同約76%に二回目接種を完了しています。ちなみに、接種対象年齢は3歳以上(シノファーム)というから驚きです。また、ワクチンを輸入するだけではなく、昨年からアストラゼネカとスプートニクVについては技術支援を受けて国内生産を開始しており、中南米諸国への輸出も行っています。以上のとおり、人流制限やワクチン接種プログラムによって一定の感染拡大の抑え込みに成功したことか*6) 仲間内では一つのマテ壺を回し飲みするのが通常の楽しみ方でありマナーとされます。ら、昨年11月以降は国内の行動規制がほぼ解除された上、入国制限も緩和され、非居住外国人であってもワクチン二回接種を完了していれば隔離期間無しで入国できるようになりました。現在は南半球のバカンスシーズンであり、観光業界も久方ぶりの盛況の波に乗ろうと数多くのプロモーションを打ち出しています。しかし、そうした高揚感に水を差すように昨年末舞い込んできたのがオミクロン株のニュースです。その影響から新規感染者数が再び爆発的に急増し(一日最大13万人)、パンデミック第三波が到来したと見なされています。全世界共通の懸念ではありますが、終わりの兆しも見えない不透明な状況にアルゼンチンもまた翻弄され続けています。新規感染者数の推移040,00060,00080,000100,000120,000(出所:保健省)2020年3月2021年6月9月12月3月6月9月12月20,000 4 終わりなき債務危機(1)先進国or発展途上国?「世界には4種類の国がある。先進国と発展途上国、そして日本とアルゼンチンだ。」ノーベル経済学賞を受賞したサイモン・クズネッツが発したジョークは、1960年代までに発展途上国から先進国に成り上がった日本と、逆に滑り落ちてしまったアルゼンチンを対比するものでした。今でもアルゼンチンの知識人はこの表現を(特に日本人相手に)よく用いますが、これを口にする際の感情は必ずしも自虐のみならず、少なくとも昔は先進国であったとの自負が含まれているように感じます。アルゼンチンは19世紀後半から20世紀初頭まで、農牧業における比較優位を生かし、米国やヨーロッパへの大量輸出により高い経済成長率を誇りました。当52 ファイナンス 2022 Feb.連載海外 ウォッチャー
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