ファイナンス 2022年2月号 No.675
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て、EUは団結し建設的で批判的な方法で実施するべき」とマニフェスト上で言及。また、ウイグルでの人権侵害を非難し、台湾への圧力にも懸念を表明している*47。続いて、今回の選挙で第三党となった緑の党は、ウイグル自治区への調査団の派遣等SPDと比較してさらに一歩踏み込んだ内容を記載。EU中国包括的投資協定(CAI)*48についても、現在の形で承認できない姿勢だ*49。最後に、FDPは中国の少数民族等への抑圧を国際法義務違反とし、台湾、香港問題についても中国を非難。EU中国包括投資協定(CAI)ついては、批准の前に再検討が必要としている*50。以上のように主要政党のマニュフェストから、対中国政策については緑の党が最も踏み込んだ立場をとり、それにFDP、SPDの順で続き、CDU/CSUが最も融和的であると考える。最も中国に対して融和的であるCDU/CSUが政権から外れ、より強硬な対中国政策を講じる緑の党やFDPが連立政権に入るため、ドイツの対中国政策にも変化が生じることが予想される。事実、第2章で確認したとおり、1999年にCDU/CSUとFDPの連立政権であるコール政権からSPDと緑の党の連立政権であるシュレーダー政権に移行した際も、連立協定において外交政策における人権問題について積極的に取り組むことを確認。これを背景に、ドイツと中国の間で、人権問題について議論する機会の一つになっている「独中法治国家対話」が開始した過去もある。今回の選挙後、SPD-緑の党-FDPの三党連立協定では、新疆ウイグル自治区等での人権侵害を2国間関係において取り上げることや香港の「一国二制度」を再確認することが明記され、日本やオーストラリア等価値観を共にする国との関係強化を目指す方針が示された*51。また、外相には、中国の人権問題等に厳しい発言をしている緑の党のベーアボック氏が就任したことからも、経済優先の対中政策が見直される可能性がある*52。*47) https://www.spd.de/leadmin/Dokumente/Beschluesse/Programm/SPD-Zukunftsprogramm.pdf P60*48) EU中国包括的投資協定(CAI):2020年12月、EUと中国の間で大筋合意。ウイグルでの人権侵害の影響を受け、現在は欧州議会が批准に向けた手続きを凍結。*49) https://cms.gruene.de/uploads/documents/Wahlprogramm-DIE-GRUENEN-Bundestagswahl-2021_barrierefrei.pdf P228-229*50) FDP_Programm_Bundestagswahl2021_2.pdf P6 P71*51) 「Mehr Fortschritt wagen - Buendnis fuer Freiheit, Gerechtigkeit und Nachhaltigkeit」P157*52) https://www.nikkei.com/article/DGKKZO77893210V21C21A1EA1000/*53) https://www.dw.com/en/olaf-scholz-will-not-attend-beijing-olympics/a-60639723*54) https://www.sankei.com/article/20211221-CI7CW4GESBLWNGDYJZDFE5XR3Y/ 岸田首相はショルツ首相と12月14日に電話会談https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211214/k10013388551000.html*55) BDI(2021年7月)「Außenwirtschaftspolitische Zusammenarbeit mit Autokratien」*56) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM22B3N0S1A021C2000000/さらに、米国や英国などが外交ボイコットを表明している2022 年2 月の北京オリンピックについて、ショルツ首相は、2月2日の公共放送ZDFとのインタビューにおいて、参加しないことを明言した*53。一方、第3章で指摘したように、貿易を中心に両国の経済的な結びつきは強い。ショルツ首相と習近平国家主席は、2021年12月21 日に電話会談を実施、両国関係等について意見交換している*54。今後、マニュフェストや連立協定上で、中国の人権問題等に厳しいスタンスをとっているSPD、緑の党、FDPが、経済的な影響を軽視して中国の人権問題等の改善に注力できるか、疑問が残る。6おわりにドイツと中国の外交関係では、人権問題が度々論点となり、関係構築を妨げる要因の1つとなってきたものの、貿易を中心に両国は親密な経済関係を築いてきた。ドイツは、経済発展を通じて、中国の人権等に対する価値観が徐々に変化すること、即ち「貿易による変化」を期待していた。たしかに、中国経済は大きく成長しドイツにとっても重要なパートナーとなったが、中国の価値観に大きな変化は生じなかった。2021年7月、ドイツ産業連盟(BDI)が発表したレポートでも、「貿易による変化という概念は限界に達した」*55と指摘している。このような現状を受け、ドイツでは、中国への経済的な依存や悪化する人権状況を懸念する声が高まっている。今後のドイツの対中国政策は、EUと中国の関係にも影響する。EU中国包括的投資協定(CAI)の凍結や、EUと台湾の関係強化など両者の緊張は高まっており、親中国姿勢が目立ったメルケル首相の退任が影響しているとの声もある*56。EU最大のGDPを誇り、2022年のG7議長国であるドイツが講じる対中国政策はドイツ経済のみならず、国際社会に影響を及ぼす可能性があり、今後も状況を注視していきたい。44 ファイナンス 2022 Feb.ドイツと中国の2国間関係SPOT

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