ファイナンス 2022年2月号 No.675
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3ドイツと中国の経済関係第2章で述べたように、天安門事件に対する対中国制裁の解除以降、独中両国は経済的な関係を深めていった。本章では具体的なデータを用い、直接投資と貿易の面から両国の経済的な結びつきの変遷を概括する。(1)直接投資ドイツから中国への直接投資は過去10年間、概ね右肩上がり増加し、2019年時点の残高は2009年比約3倍増となる930億ドル*34となっている(図1)。但し、ドイツのとって最大の投資先は米国、次いでルクセンブルク、オランダであり、中国は6番目(5.3%)に留まっている(図2)。次に、中国からドイツへの直接投資の動向を見ると、規模的にはドイツによる対中投資の1割程度であるが、残高は過去10年、一貫して増加し、2019年には対2009年比約5倍となる48億ドルとなっている。ただし、この金額は同年の諸外国からの対ドイツの直接投資残高全体の0.5%を占めるに過ぎない(図3)。なお中国からドイツへの直接投資残高が2017年以降は*34) 出典:IMF, Coordinated Direct Investment Survey(CDIS)*35) 2021年3月公表のEYの調査結果https://assets.ey.com/content/dam/ey-sites/ey-com/de_de/news/2021/03/ey-chinesische-investoren-in-europa-2021.pdf*36) 本レポートの貿易データについては、ドイツ連邦統計局から取得。 https://www.destatis.de/EN/Home/_node.html横ばいとなっている主たる理由として、2016年に起こった中国の家電メーカー美的集団によるドイツの産業ロボットメーカーのクーカ社の買収が挙げられる。クーカの買収を受けドイツ国内では先進技術の流出等の懸念が高まり、買収審査制度等が順次強化されるきっかけとなった。こうした背景もあり、投資残高だけではなく、中国の企業によるドイツ企業の買収件数についても、2017年以降減少していると考えられる(図4)*35。(2)貿易*36ドイツの対中国貿易比率は2000年~2010年までは一貫して右肩上がり、その後も足元まで概ね上昇傾向を続けている。結果、2001年に約1.9%を占めるに過ぎなかった対中国輸出のドイツの輸出全体に占める割合は、2020年では約4倍の8%程度に達した(図5)。国別の割合を比較すると、2001年の時点では、ドイツの輸出相手国は第1位がフランス(約10.9%)、2位は米国(約10.6%)、次いで英国(約8.6%)となっており、中国は第14番の輸出相手国に過ぎなかった。ところが、2020年には、中国がドイツの輸図1 両国の直接投資残高の推移0654321010090807060504030201020092010201120122013201420152016201720182019(10億$)(10億$)(出所)IMF中国→ドイツ(左目盛)ドイツ→中国(右目盛)図2 ドイツからの直接投資残高の国別割合(単位:%)米国17.7ルクセンブルク12.1オランダ11.5英国8.0フランス5.8中国5.3香港0.5その他12.3(出所)IMF図4 中国企業によるドイツ企業の買収件数の推移(年)0705683823262836406854353928605040302010200620072008200920102011201220132014201520162017201820192020(件)(出所)EY図3 ドイツへの直接投資残高国別割合(単位:%)米国11.6ルクセンブルク18.5オランダ17.5英国7.2フランス5.7スイス8.3中国0.5香港0.7その他5.1(出所)IMF38 ファイナンス 2022 Feb.SPOT

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